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【特集】2022年、私の愛聴盤~原 雅明

毎年恒例、BLUE NOTE CLUB執筆陣による今年愛聴したジャズ・アルバム3枚をご紹介します。

文:原 雅明

John Zorn / Incerto
Selene Saint-Aime / Potomitan
Koma Saxo with Sofia Jernberg / Koma West

 今年よく聴き、たまに機会があるとDJでもかけていたアルバムから3枚を選んだ。まず、『Incerto』は、ジョン・ゾーンの楽曲をジュリアン・レイジ、ブライアン・マルセラ、チェス・スミス、ホルヘ・ローダーのカルテットが演奏している。ゾーンのレーベルTzadikからのリリースで、サブスクでは聴くことができない。



それゆえリスナーは限定的になるだろうが、レイジが今年Blue Noteからリリースした新作『View With A Room』とぜひとも並べて聴いてもらいたい。レイジがローダー、デイヴ・キングとのトリオでの演奏と並行して関心を持って進めていることを伺い知れるからだ。



『Incerto』は、楽曲の複雑さや演奏の幅広さがあって、感情の起伏もストレートに感じられた。勢いがある部分も楽しめたし、繰り返して聴きたくなるアルバムだった。ラージが近年参加しているTzadikの作品は、ビル・フリゼールやギャン・ライリーとのギター・トリオをはじめ、どれも素晴らしいが、特に本作は現代ジャズのスタイルでアプローチしているので、より多くのリスナーに聴かれる機会が増えてほしいと思う。



 カリブ海のマルティニーク島と西アフリカにルーツを持ち、スティーヴ・コールマンに師事したフランス人のベーシスト、作曲家で、シンガー、詩人でもあるセレーヌ・サン=エメのセカンド・アルバム『Potomitan』は、とても味わい深い音楽だった。パンデミック中にマルティニークに滞在した彼女が地元のパーカッション奏者も交えて制作したアルバムだが、マルティニークのフォークロアとアフロ・キューバン、パリのクレオール・ジャズとアーティスト・イン・レジデンスで滞在したニューオーリンズのジャズが即興的に絶妙なバランスで混じり合う。チャーリー・パーカーの「The Bird」をカヴァーしているが、それはまるで新しいフォークロアのように演奏され、一方でシベリウスの管弦楽組曲のカヴァーは弦楽三重奏と自身のヴォーカルで祖母に捧げた曲として演奏されている。カリブ海の文化的な遺産をテーマにしながら、ワールド・ミュージック的な掛け合わせではなく、パーソナルな視点からしなやかで有機的な一つの音楽に仕上げているのが心地良かった。



 スウェーデン出身でベルリンを拠点に活動するベーシスト、作曲家のペッター・エルド率いるコマ・サクソのアルバム『Koma West』は、リズムとアンサンブルへのアプローチが刺激的で、聴くたびに発見があった。ECMからリリースしているキット・ダウンズやガール・ニルセンのバンドのベーシストでもあるが、ソロではエリック・ハーランドらドラマーを主役にしたコンセプチュアルなプロジェクト・アルバム『Projekt Drums Vol. 1』をまずリリースした。それに続いてリリースしたのがコマ・サクソのデビュー作だ。コマ・サクソは、エルドと3人のサックス奏者とドラマーを中心に、ストリングスやヴォーカル、ダウンズのピアノも加わる。その音楽的なルーツの一つに90年代のヒップホップのビートがあるというが、所謂ジャズとヒップホップの融合が聴かれるわけではない。反復を基調としたリズム体系と連続的な変化を付けていくアンサンブルが絡み合って進行する。身体を揺さぶるグルーヴィな展開もあれば、ストリングスのアレンジやヴォーカルのメロディが際立つ展開もある。一筋縄ではいかないが、複雑さをアピールしているわけではなく、ラージアンサンブルという枠にも収まらないし、ポストロック的なサウンドというわけでもない。何とも形容し難いのだが、それゆえに魅力的で、レコードでも買い求めたくなったアルバムだった。