COLUMN/INTERVIEW

【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.20】 ルイ・アームストロング / サッチモ・クリスマス~ルイ・ウィッシズ・ユー・ア・クール・ユール

ルイ・アームストロング / サッチモ・クリスマス~ルイ・ウィッシズ・ユー・ア・クール・ユール


(文:原田 和典)

なぜ生前のルイ・アームストロングがクリスマス・アルバムを残さなかったのか、不思議でならなかった。きくところによると、クリスマス・シーズンになると楽屋にツリーを持ち込むほどのクリスマス好きだったらしいのに。50年代後半には『Armstrong As Santa Claus』と題する編集盤EPがおそらくヨーロッパ限定で発売されたものの、そのコンセプトがアルバム単位に膨らむことはなかった。フランク・シナトラやエラ・フィッツジェラルドは少なくとも2種はクリスマス・アルバムを出しているのだから、ルイのそれも同じくらいかそれ以上あっても不思議ではないのに。



ルイの初レコーディング(1923年)から100年目にあたる2022年、留飲を下げる時が遂に来た。本作『Louis Wishes You A Cool Yule』の発表である。“Yule”とは具体的にいうと、クリスマスや大晦日や元旦を含む12月21日から1月1日に至る10日間を示す。“粋な年末年始を過ごそうじゃないか”と呼びかけるルイのダミ声がアルバム・タイトルを通じて聞こえてくるようではないか。しかもLPとCDの同時発売、LPは重量盤にして“赤盤”である。ぼくは赤盤をターンテーブルに乗せて、ジャケットに大きく映し出されたルイのコスプレ姿を見ながら、アルバムを大いに楽しんだ。ジャケットに使われたユーモラスなポートレイトは『Armstrong As Santa Claus』用のものと同じに感じられる。ルイは太りやすい体質だったようで、時おりハードな下剤を使って減量していたときく。このジャケ写の時は“ぽっちゃりサッチモ”であるが、サンタクロースはこのくらい丸みのあるほうが一層、暖かみが伝わってきていい。



レコードにもCDにもデータ的なことはほぼ記されていないので、ここで若干触れておきたい。


<Side A>
1.Cool Yule
1953年10月22日録音。トゥーツ・カマラータ編曲指揮のオーケストラが伴奏。初出は78回転/45回転のシングル盤
2.Winter Wonderland
1952年9月22日録音。ゴードン・ジェンキンス編曲指揮のオーケストラが伴奏。間奏のピアノはマーティ・ナポレオンが担当。初出は78回転/45回転のシングル盤
3.I've Got My Love To Keep Me Warm
1957年8月13日録音。エラ・フィッツジェラルドとの二重唱。初出はLP『エラ・アンド・ルイ・アゲイン』
4.Zat You, Santa Claus?
1953年10月22日録音。トゥーツ・カマラータ編曲指揮のオーケストラが伴奏。初出は78回転/45回転のシングル盤
5.Christmas In New Orleans
1955年9月8日録音。ベニー・カーター編曲指揮のオーケストラが伴奏。初出は78回転/45回転のシングル盤
6.White Christmas
1952年9月22日録音。ゴードン・ジェンキンス編曲指揮のオーケストラが伴奏。初出は78回転/45回転のシングル盤

<Side B>
1.Christmas Night In Harlem
1955年9月8日録音。ベニー・カーター編曲指揮のオーケストラが伴奏。初出は78回転/45回転のシングル盤
2.Baby, It's Cold Outside
1951年1月30日、パサデナ公会堂でのライヴ録音。ヴェルマ・ミドルトンとの二重唱。初出はLP『サッチモ・アット・パサデナ』? (同じテイクを使用したと思われる78回転のシングルも
在)
3.Moments To Remember
1955年9月8日録音。ベニー・カーター編曲指揮のオーケストラが伴奏。初出は78回転/45回転のシングル盤
4.What A Wonderful World
1967年8月16日録音。トミー・グッドマンまたはアーティ・バトラー編曲指揮のオーケストラが伴奏。初出は45回転のシングル盤
5.A Visit From St. Nicholas
別名「The Night Before Christmas」、1971年2月26日に自宅で録音。その自宅を改装した「ルイ・アームストロング・ハウス・ミュージアム」のリサーチ・コレクションのディレクターで
るリッキー・リカルディが書いたライナーノーツによると、当アルバムに収録されているのは“その日、2回朗読したうちの、もうひとつのほう”であるようだ(だとすれば、71年に出た45回転
シングル盤とは別ヴァージョンということになる)。リリースにあたり、現役のピアニストであるサリヴァン・フォートナーの伴奏が付け加えられた。



歌とトランペットは、もちろんルイ・アームストロングだ。『Armstrong As Santa Claus』に収められていたのはA2、A5、A6、B1の4曲。“あてがき”として用意されたであろうナンバーも、いろんな歌手がとりあげてきたウィンター・ソングも、見事、人懐っこいサッチモ節で届けてくれる。「Cool Yule」はスカやスウィング・ロックのファンにもぜひお勧めしたいところだし、ドアをノックする音をドラムで表現したり風の吹き荒れるSEまで登場する「Zat You, Santa Claus?」も活気にあふれている。この曲が録音された1953年はすっかり磁気テープ録音が当たり前になっていた時期だが、明らかな“つなぎ”のパートも含めて(同年の同じ時期に出た、テープ編集を駆使したクリスマス・ソングの例として、トニー谷「サンタクロース・アイ・アム・橇」も併せて聴いていただきたい)、演奏を直接ラッカー盤に音溝として刻み込む旧来のダイレクト・カッティング方式ではありえない世界が広がる。



「A Visit From St. Nicholas」はルイのラスト・レコーディングにあたる(7月6日死去)。作って即座に配信するということなど考えられなかったアナログ時代、クリスマス関連の音源はいつごろから制作にとりかかるものだったのだろう? たとえばメル・トーメは「真夏のカリフォルニアの海岸でクリスマスにまつわるものをいろいろ思い出しながら“ザ・クリスマス・ソング”を書いた」というような述懐をしている。楽曲作成、レコーディング、音盤化のスケジュールはだいたい半年前後という感じだったのかもしれない。なぜルイはクリスマスまでまだ10カ月前もある2月の時点でもう、12月24日にまつわる朗読を残そうと考えたのであろう。もうひとつ、この「A Visit From St. Nicholas」におけるルイはトランペットはおろか歌も歌っていない。それが不可能なほど体力が衰えていたのかも、と思いつつ、いや待てよと、ルイ関係の資料を調べ直し、「All of Me: The Complete Discography of Louis Armstrong」を参照したら、この録音の3日後にあたる3月1日、ルイはテレビ番組「トゥナイト・ショウ」に出て、トランペットと歌で「プリティ・リトル・ミッシー」と「ブルーベリー・ヒル」を披露したことになっているではないか(unissuedと書いてあるので、何らかの理由で放送はされなかったようだが)。
わかりやすく楽しく暖かな音楽と、魅力的な謎。ルイ・アームストロングの世界は、いつまで経っても深い。




(作品紹介)
ルイ・アームストロング 『サッチモ・クリスマス~ルイ・ウィッシズ・ユー・ア・クール・ユール』

発売中
https://store.universal-music.co.jp/product/4811604/

https://Louis-Armstrong.lnk.to/Satchmo_christmas