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【連載】ジャズ百貨店 名盤BEST 20 第15回:ビル・エヴァンス『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。10月・11月に新たなラインナップ100タイトルが登場するのに先駆けて、これまでに発売された全510タイトルの中から“いま”最も売れている20枚をピックアップし、個性豊かな執筆陣が紹介します。



文:吉本秀純

 タイトルもジャケットのアートワークもさまざまな意味での“別れ”を暗示するようだが、ただ単に70年代に数多くの録音を残してきたFantasyレーベルでの最終作ということで“じゃあね”くらいの軽いニュアンスだったのかもしれない。ただ、1977年に録音され、51歳で亡くなる80年に発表された本作と死後に追悼盤としてワーナーからリリースされた『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』(ジャズ百貨店「Encore」編にてリリースされました)は、66年から10年以上にわたってベース奏者を務めてきたエディ・ゴメスが在籍するトリオでの最後の録音であり、演奏からもゴメスとの到達点的な境地を作品として残そうという気概が感じられる。



 ミシェル・ルグランの佳曲を取り上げたタイトル・チューンは2テイクを収録。いずれもエヴァンスの本領を発揮したリリシズムにあふれた好演で、ファンタジックな曲調とこの時期ならではの深みが良いバランスで共存している。取り上げている曲の絶妙さもまた本作の大きな魅力であり、軽快にグルーヴ感を強める2曲目のハービー・ハンコック「ドルフィン・ダンス」、一転して情感豊かなバラード調で深く内面に入り込んでいくような3曲目のジョニー・マンデル「シースケイプ」、そしてジャズで題材にされることはめずらしい終盤のバート・バカラック「ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム」も、原曲を崩すことなく弾きながらも完全にエヴァンス色に染め上げた名演。ジャズと映画音楽の両面で才を発揮した作曲家が多く、ニュー・スタンダードを模索していた姿勢も感じられる。また、スティーヴ・スワロウ作のクラシカルな雰囲気の「ポ・ドゥ―ス」、CD時代に入って追加された明快なタッチの2曲も秀逸で、多彩なアプローチによる後期エヴァンス・トリオの粋が堪能できる。



 久々に本作に耳を傾けてみると、疾走感を高めるタイプの楽曲には、意外にも近年にマルティニークあたりから台頭するフレンチ・カリビアン圏の流麗なピアニストに通じる魅力も。初期の傑作群とはまた違った、新たな発見の余地も残した晩年の代表作だ。


【リリース情報】
ビル・エヴァンス『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』

UCCO-5606
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco5606/

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