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【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.19】 ジョン・コルトレーン / ブルー・トレイン(後)

ジョン・コルトレーン / ブルー・トレイン(後)


(文:原田 和典)

ジョン・コルトレーン、ブルーノート・レコーズ、モダン・ジャズ、それぞれの歴史に光り輝く名盤『ブルー・トレイン』は1958年1月頃モノラル盤、60年6月頃ステレオ盤として米国でリリースされた。我が国で、初めて輸入盤専門店以外のレコード店に並んだのは、録音から10年を経た67年下旬のこと。ただし、「海外でのプレスは基本的に認めない」という創業者アルフレッド・ライオン(67年引退)の意志に従い、アメリカから取り寄せたステレオ盤に日本の発売元が日本語のオビやライナーノーツをつけるという形でのリリースだった。オビには“斬新的奏法でテナー界をリードして来た巨星の追悼アルバム”とあるので、この年の7月にコルトレーンが亡くなったということを踏まえてのメモリアルなニュアンスをこめた発売でもあったようだ。いわゆる日本でプレスされた“国内盤”が初めて登場したのは1976年(ステレオ盤)、以下、数えきれないほどの再発の機会を得て現在に至っている。筆者の知る限り、モノラルの国内盤復刻LPが発売されたのは1994年と2011年の二度。ここで「モノラルの『ブルー・トレイン』を遂に聴いた」というファンも多かったのではなかろうか。



そしてこのたび、録音から満65周年というアニバーサリーを祝すように、米国から『ブルー・トレイン』のモノラル盤重量盤LPが装いも新たに登場した。表紙写真を見るだけでは単なる復刻盤に感じられるかもしれないが、ジャケットは見開きになっていてセッション写真満載だ。レイアウトも、音質も、監修;ジョン・ハーリー、マスタリング;ケヴィン・グレイの黄金コンビによる、2022年の空気をしっかり反映した“新オリジナル盤”といっていいだろう。前回とりあげたステレオ盤2枚組LP『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』のようなメイキング部分はなく、実にストレートに潔く、A面に「ブルー・トレイン」「モーメンツ・ノーティス」、B面に「ロコモーション」「アイム・オールド・ファッションド」「レイジー・バード」がオリジナル通りの曲順で収められている。



メンバーは以下の6人。ジョン・コルトレーン(テナー・サックス、30歳)、リー・モーガン(トランペット、19歳)、カーティス・フラー(トロンボーン、24歳)、ケニー・ドリュー(ピアノ、29歳)、ポール・チェンバース(ベース、22歳)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス、34歳)。平均年齢は26歳だ。現在の視点では、あまりにも豪華なモダン・ジャズ・ヒーローズの集いということになろうが、1957年当時の彼らは“最先端のジャズに取り組む、期待の気鋭”といったところ。コルトレーンがカリスマ的な評価を得るのはこの数年後、いや、ひょっとしたら他界した67年以降だったかもしれない。



彼は57年から58年にかけてプレスティッジ・レコーズに数々のリーダー作を残したが、それらは主に今日スタンダード・ナンバーの仲間入りをしているもの(1958年の時点で「インヴィテーション」に注目していた先見の明には唸らされる)、もしくは既定のコード進行に沿って即興的に演奏されたもの(「インディアナ」に則った「ゴールズボロ・エキスプレス」など)で構成されている。リハーサルも特に設けられていなかったようで、プレスティッジの常連演奏家とのジャム・セッション的な作品も少なくない。いっぽう、このブルーノート盤は、1曲を除いてすべてコルトレーンの書きおろしで占められた。共演者にも、プレスティッジ盤とは一線を画する面々が選ばれている。レコーディングの前日に周到なリハーサルが行なわれただけではなく(トロンボーン奏者カーティス・フラーの回想によると、場所はニューヨークのノラ・サウンド・スタジオであったとのこと)、本番当日も納得いくまで演奏を練り直し、楽曲によっては複数のテイクを編集したものが“完成品”となった。プレスティッジ盤が日常のスナップ写真だとすれば、ブルーノート盤はここ一番という時のポートレイト。今回こそプレスティッジの好意でブルーノートに自己名義の作品を残すことができたが、そんな特例にはそうめぐりあえるものではない。次は望めないかもという思いも、当アルバムに向かう彼の創造意欲を大いに駆り立たせのではないか。果たせるかな『ブルー・トレイン』はコルトレーン唯一のブルーノート・リーダー作となった(コンピレーション盤は除く)。



あれほどの革新者、注目の的であっただろうに、コルトレーンのインタビュー記事は非常に少ない。『ジョン・コルトレーン インタビューズ』という本が出ているが、ようするに1冊にまとまるほどの分量しかない。60年春、マイルス・デイヴィスのバンドで北欧を訪れたとき、取材を受けたコルトレーンは本作を最高傑作の一枚にあげている。まだステレオ盤が発売されていない時期だから、彼はモノラルの『ブルー・トレイン』を聴いて、それを自身のベストとして認めたのだ。



そのモノラル盤『ブルー・トレイン』が、最新の形でここにある。若きコルトレーンが何を思いながら、モノラル・サウンドに耳を傾けたか。少しでもそのロマンに迫りたいのなら、このモノラル盤は“必入手”だ。


(作品紹介) 
ジョン・コルトレーン 『ブルー・トレイン』MONO LP

発売中
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