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【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.18】 ジョン・コルトレーン / ブルー・トレイン(前)


ジョン・コルトレーン / ブルー・トレイン(前)


(文:原田 和典)

2022年は、まるで“『ブルー・トレイン』イヤー”ではないか!

目の覚めるような喜びに包まれているのは自分だけではあるまい。ジョン・コルトレーンが1957年9月15日に録音した『ブルー・トレイン』(全5トラック入り)といえばジャズ史上の傑作であると同時に、名門ブルーノート・レコーズ屈指のロング・セラーであるわけだが、その誕生65周年を祝して、いろんな種類の『ブルー・トレイン』が新たに市場を賑わせている。

●『ブルー・トレイン(MONO)』のアルティメット・ハイクオリティCD
●『ブルー・トレイン(MONO)』のSACD
●『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』のアルティメット・ハイクオリティCD  ※2枚組、ステレオ録音、全12トラック入り
●『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』のSACDハイブリッド  ※ステレオ録音、全12トラック入り



もちろん『ブルー・トレイン』のステレオCDは定番としてカタログに残り続けているので、選択の余地は広がるばかりだ。しかも米国では、次のような内容のアナログ盤が発売されている。

●『ブルー・トレイン(MONO)』の重量盤LP
●『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』の重量盤2枚組LP ※全12トラック入り

いずれも監修;ジョン・ハーリー、マスタリング;ケヴィン・グレイという黄金コンビによって制作されており、復刻盤というよりも“新オリジナル盤”という印象を受けた。見開きジャケットの内部にはレコーディング時の貴重なフォトも満載、まるで写真集のような趣だ。今回は以上6点のなかから『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』のLPについて触れたい。

収録はニュージャージー州ハッケンサックにあったルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオで行なわれた。両親の自宅を改装していたと伝えられる、伝説のスタジオだ。正倉院にヒントを得たらしい、あの有名な(二代目)スタジオが同州イングルウッド・クリフスに建築されるのはこの2年後、1959年のことである。録音はモノラルとステレオの両方で行なわれた。アメリカでステレオLPが発売されたのは翌58年からだが、50年代半ばからステレオ・テープが普及しており、ジャズ関連ではアトランティックやコンテンポラリーといったレーベルがここに参入していた(両者には56年録音のリアル・ステレオ音源が存在する)。ブルーノートも57年3月録音のアート・ブレイキー『オージー・イン・リズム』で、ステレオ・テープ市場に顔を出したことになっているが、残念ながら筆者は実物もパッケージも見たことがない。ヴァン・ゲルダーは57年に入ると、少なくともブルーノートの音源に関してはほぼステレオ/モノラルの両方で記録しており、そのひとつに『ブルー・トレイン』があった。ちなみに、当時ブルーノートのライバルと目されていたプレスティッジ・レコーズ初のステレオ音源は、筆者の知る限り、57年9月20日に録音されたサックス奏者3名の競演盤『ホイーリン・アンド・ディーリン』。『ブルー・トレイン』の5日後、ヴァン・ゲルダーとコルトレーンは、他社のステレオ収録にも関わっていたのである。



『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』の重量盤2枚組LPに話を戻そう。ディスク1には60数年にわたってジャズ・ファンに親しまれてきた『ブルー・トレイン』がそのまま収められている。筆者もキングレコードのGXK規格、やはりキングから出た特別復刻盤シリーズ、「DMM」ことダイレクト・メタル・マスタリングを謳った(確か)フランス・プレスなどいろいろ楽しんできたが、かつてないといっていいほど各楽器の音がくっきり聴こえてきたのには驚いた。ピアノのリヴァーブが強まったような気がしないでもないけれど、圧巻なのはポール・チェンバースのベースの、ヨダレものの響き。彼がいかに粒立ちの良いトーンで、リズムの表と裏とその他モロモロを自在に行き来しながらソリストに刺激を与えているかが、ありありと伝わってきた。タイトル曲におけるカーティス・フラーのソロの背後で突然8ビート調のベース・ラインを送り出し、その後、それに気づいたのかどうかフィリー・ジョー・ジョーンズがハイハットをシャリシャリ鳴らしつつ倍テンポを刻み始めるあたり、もう、“生き物感”満載で、この先何十年経とうとも、こうした当意即妙なところがジャズから失われることのないように、それだけは祈りたいと心を新たにした。



ディスク1がOKテイクだとすると、ディスク2は「メイキング集」といえばいいか。スタジオ内での会話や、途中で終わるパフォーマンスも含まれている。「ブルー・トレイン オルタネイト・テイク7」などアンサンブルも、管楽器とリズム隊のコール&レスポンスも、完成まであと数歩といったところで、各人の“歌い方”の照準があっていない感じ。「これほどの卓越した音楽家が集まっても、いきなりバッチリかっこよく行く、というわけではない」ということを伝えるドキュメントでもあり、この後にディスク1の「ブルー・トレイン」を聴くと、プロの適応や修復における能力は本当にすごいと溜め息が漏れるばかりだ。「モーメンツ・ノーティス オルタネイト・テイク4」も実に興味深い資料といってよく、テーマ・メロディの提示部分をディスク1の同曲と聴き比べると、3人の管楽器で演奏されているパート以外がコルトレーンのアドリブによって綴られていたことが体感できる。



アルバム『ブルー・トレイン』や、参加メンバー6人のプレイを好きになればなるほど、『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』のLPは、よりいっそうかけがえのない価値を持ってあなたに迫ることだろう。ジャケットの右側にある「STEREOステッカー」(ブルーノート初期のステレオ盤ジャケットは、モノラル盤のそれに、ステッカーが貼られていた)の復刻も、マニア心をくすぐってやまない。


(作品紹介) 
ジョン・コルトレーン 『ブルー・トレイン:コンプリート・マスターズ』2LP

発売中
https://store.universal-music.co.jp/product/4548107/