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【連載】ジャズ百貨店 名盤BEST 20 第10回:キース・ジャレット『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。10月・11月に新たなラインナップ100タイトルが登場するのに先駆けて、これまでに発売された全510タイトルの中から“いま”最も売れている20枚をピックアップし、個性豊かな執筆陣が紹介します。



文:高橋 悠(KAKULULU)

キース・ジャレットが「慢性疲労症候群」という難病に罹り、演奏活動がストップしていた1998年。もう一度ピアノを愛するようにとリハビリがてらに録音された、ソロで初のスタンダード作品が本作だ。ジョージ・ガーシュウィン作の「愛するポーギー」で弱々しくも始まる本作は、天才キース・ジャレットの創造性をあえて抑え、シンプルに削がれた音が他の作品では出会えない正しく奇跡の一枚。
本作はリハビリを支えた妻、ローズ・アン・ジャレットに捧げられ、彼がいちばんリラックスできるであろう自宅のプライベート・スタジオで録音されている。
 

 じつはこのCDを個人的にふたりの友へプレゼントしたことがある。学生時代に不眠症に苦しむ友人がいた。友人が少しでも楽になるように、『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』をプレゼントした。嘘みたいな話なのだが、この音楽を流すと眠ることができるんだと、少し笑いながら友人が言っていたのを思い出す。これが一人目。

 もう一人は東北のカフェ店主の友人に。2011年の東日本大震災後、友人のカフェは節電しながら営業を再開した。その時はこの『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』しか聴けなかったと言っていた。いつもより少し暗い店内で、キース・ジャレットの寄り添うような優しいピアノの音。



 自分にとても厳しく、時にはお客さんにも厳しいキース・ジャレットが、ここまで自身を曝け出したアルバムはないと思う。もともと闘病を支えてくれた奥さんへのクリスマス・プレゼントと考えられ、発売の予定はなかったと言われるが、人々を優しい眠りへ誘い、時には寄り添ってくれる。そんなふうに痛みと愛が収まった一枚はないと思う。誰かの励みにもなり、そして、誰かにプレゼントしたくなる。そんな一枚です。


【リリース情報】
キース・ジャレット『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』

UCCU-5707
https://store.universal-music.co.jp/product/uccu5707/

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