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【NEWEST ECM Vol.24】 Enrico Rava & Fred Hersch / The Song is You

Enrico Rava & Fred Hersch / The Song is You


文:五野 洋

ECMのCDはスタート・ボタンを押してもすぐには音が聞こえて来ない。5秒くらいのサイレンスがある。 ECMのこういうセンスが好きだ。

特にこういう静謐なデュオ・アルバムにはピッタリだと思う。

アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲「白と黒のポートレート」で静かにスタート。フレッド・ハーシュのクリスタルなピアノに続いてエリス・レジーナの歌が乗り移ったかのようなエンリコ・ラヴァのフリューゲル・ホーンが切々とこの物哀しいストーリーを語り始める。フレッド・ハーシュはエンリコ・ラヴァが紡ぎ出すストーリーに耳をそばだてながら寄り添うようにスペースを提供する。



「インプロヴィゼーション」はその名の通り全くの即興演奏。打ち合わせなしでいきなりレコーディングしたような二人の緊張感が心地よい。

「センチになって」はストレートにテーマを表わしながら、遊び心に溢れたキャッチボールをしているかのような演奏。楽しそうな二人の表情が見えるようだ。

「ザ・ソング・イズ・ユー」は逆に二人の自由なやりとりから少しずつテーマのメロディが姿を現すスリリングな展開。

「チャイルズ・ソング」はフレッド・ハーシュがチャーリー・ヘイデンに捧げたチャーミングな曲。ちょっとチック・コリアの香りもするテーマからフリューゲル・ホーンのリズミックなソロへ。ピアノの受け応えも交えて二人の会話がどこまでも続く。

「ザ・トライアル」はもともとエンリコ・ラヴァの「ノワール」という映画音楽アルバムに収められた曲で、フレッド・ハーシュの軽快なピアノから始まるインタールード的なショートピースになっている。

続くモンクの「ミステリオーソ」ではブルース進行に乗ってエンリコ・ラヴァがスウィングする。彼のビバップ愛が少し顔を出して思わず頬が緩む。

音楽としての形はフリューゲル・ホーンとピアノのデュオだが、そこにある本質はエンリコ・ラヴァとフレッド・ハーシュの会話だと思う。イタリア人とアメリカ人による音の会話、それも極めて親密な。

一応8つの曲が並んでいるが、2人のインプロヴィゼーションに身を任せているとそれがジョビンの曲であれジェローム・カーンの曲であれモンクの曲であれ、ひとつの大きな流れとなって聴き手に夢のようなひとときを与えてくれる。気がつくと最後はフレッド・ハーシュのピアノだけになっている。この「ラウンド・ミッドナイト」はもしかしたらアンコールかも知れない。そうだとするとなかなか粋な計らいではないか。



エンリコ・ラヴァとECMの関係は1975年のアルバム"The Pilgrim And The Stars"から始まったが次のアルバム、ディノ・サルーシとの"Volver"(1986)まで10年以上のブランクがあり、その次のアルバム、イタリアン・クァルテットによる "Easy Living"(2003)までさらに17年かかっている。しかしそのECM復帰から"Tati", "The Words and The Days", "The Third Man" ,"New York Days"と強力な作品を精力的にリリースする。そして2010年の"Tribe"で、それまでイタリアの才能ある若手を起用して来た大きな成果が結実する。ステファノ・ボラーニ(p)、ジョヴァンニ・グイディ(p)、ジアンルカ・パトレーラ(tb)等がエンリコ・ラヴァのバンドから巣立っており、今やイタリア・ジャズ界のメンターとも言える存在だ。

ECM最新作は2021年10月リリースの"Edizione Speciale"。イタリアン・セクステットを率いたベルギー、アントワープでのライヴだ。



フレッド・ハーシュはこれがECMデビューになるが、JMTレーベルに残したジェーン・アイラ・ブルーム(ss)とのデュオ"As One"(1985)以降数々のデュオ・アルバムをレコーディングしている。特筆すべきはその名も"The Duo Album/Fred Hersch & Friends"(1997)というチャリティー限定盤で、ジム・ホール、ゲイリー・バートン、リー・コニッツ、トミー・フラナガン、ダイアナ・クラール等12人の錚々たる友人達と共演している。2022年1月にリリースした最新作『ブレス・バイ・ブレス』(Free Flying)は自己のトリオと弦楽四重奏との共演で全曲オリジナルを演奏する意欲作。

数多くのデュオ名盤で知られるECM。『ルータ&ダイチャ』キース・ジャレット&ジャック・ディジョネット。『クリスタル・サイレンス』チック・コリア&ゲイリー・バートン。『輝く水』エグベルト・ジスモンチ&ナナ・ヴァスコンセロスなどなど、ちょっとあげただけでも歴史に残る作品ばかりだが、そのリストにこの『ザ・ソング・ウィズ・ユー』が静かに加わるのは嬉しい限りだ。


(作品紹介)
Enrico Rava & Fred Hersch / The Song is You

https://www.universal-music.co.jp/enrico-rava/products/ucce-1195/