COLUMN/INTERVIEW

【コラム】生誕85周年を迎えたベースの巨匠チャーリー・ヘイデン。そのデュオ作品の魅力を改めて考える。


今年8月6日に生誕85周年を迎えたジャズ・ベースの巨匠チャーリー・ヘイデン(1937-2014)。60年以上にわたるキャリアにおいて実に多彩な活動を展開したヘイデンだが、中でも数々のピアニストやギタリストなどと録音した一連のデュオ作品は、ヘイデンの諸作の中でも人気が高くロングセラーを続けている。今回、デュオ編成で残された名盤10作品が高音質UHQCD仕様でリイシューされたのを機に、改めてその魅力をジャズ評論家の藤本史昭氏が解説する。

文:藤本史昭

チャーリー・ヘイデンのリーダー作を眺めてみると、リーダーと銘打ってはいても、実は共作的色合いが強いものが多いことに気づく。たとえばリベレーション・ミュージック・オーケストラの実質的な音楽監督はカーラ・ブレイだし、カルテット・ウエストはヘイデン主導とはいえあくまでもコンセプショナルなユニット。それ以外の作品も、自分の主張だけを押し出すのではなく、共演者の個性を尊重した民主主義的作りのものがほとんどである。この事実は、ヘイデンの根底にある音楽観――それは他者との“共感”であろう――を我々に教えてくれるわけだが、それを端的かつ象徴的に示したのが、デュオによる作品群だ。

50余りのリーダー作のうち、約3割がデュオ――このことからもヘイデンがいかにこの形態を重視していたかがうかがえよう。その試みが最初にはじまったのは1976年1月。恩人であったハンプトン・ホーズとのセッションを皮切りに、彼は1年をかけてオーネット・コールマン、キース・ジャレット、アリス・コルトレーン、ポール・モチアン、ドン・チェリー、アーチー・シェップといった音楽家たちと集中的に録音作業を行う。『クロースネス』、『ザ・ゴールデン・ナンバー』、『アズ・ロング・アズ・ゼアズ・ミュージック』という3枚のアルバムに振り分けられたそれらの演奏は、スタイルこそオーソドックスからフリーまで多岐にわたるが、いずれも、決められた枠を超えたところでの共演者との濃密な音の交感が記録されており、当時ヘイデンが追求していた表現がいかなるものであったかが明確に示されている。

 


78年にクリスチャン・エスクーデと『ジタン』を録音した後、ヘイデンのデュオ・レコーディングはしばし中断されるが、90年代に入るとふたたび活発化しはじめる。まず90年には、カルロス・パレデス、そしてジム・ホールと、ギタリストとの共演が2作。前者はポルトガル・ギターの名手としてのパレデスに寄った作品だが、それだけにヘイデンの音楽的コミュ力の高さがよくわかる。一方後者はデュオの達人同士による傑作。多彩な語法を駆使した自在なパフォーマンスは本当に素晴らしいが、発表されたのは2014年、両者が亡くなってからだった。

 


94年には、彼のデュオ作の中でも特に印象深い作品が録音される。ハンク・ジョーンズとの『スピリチュアル』だ。ジョーンズがソロで弾いた「スティール・アウェイ」に感銘を受けたヘイデンが、ピアニストに請うて実現したこのアルバムは、黒人霊歌、聖歌、賛美歌ばかりを集めた異色作だが、2人の音楽に対する畏敬がひしひしと伝わってきて実に感動的。この共演は両者にとって忘れがたいものとなったのだろう、ジョーンズが世を去る直前の2010年には、続編の『カム・サンデイ』が録音されている。

 


そして96年、パット・メセニーとの傑作『ミズーリの空高く』が生まれる。アメリカ中西部で生まれ育ち、カントリーやフォーク・ミュージックを音楽の原風景として持ち、オーネット・コールマンに大きなシンパシーを抱き…という共通点を持つ彼らが長年話し合った末に生まれたこの作品は、意外なほどシンプルで派手さのかけらもない。だが美しいメロディーと美しいハーモニーで誠実に紡ぎ上げられた音楽は多くの人々の心を打ち、98年のグラミー賞《最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム》に輝くことになる。

 


90年代半ば以降のヘイデンのデュオ・パートナーは、ほとんどがピアニストで占められる。ケニー・バロン、クリス・アンダーソン、ジョン・テイラー…中でも注目すべきは、ゴンサロ・ルバルカバとブラッド・メルドーだ。ルバルカバについてヘイデンは、そのワールド・デビューに尽力するほど惚れ込んでいたわけだが、では彼の何に惚れ込んでいたか。それがよくわかるのが『トーキョー・アダージョ』だ。ピアニストの静謐で透徹した叙情性にフォーカスしたこのデュオは、ヘイデンが求めた音楽美の理想型の1つといっていいだろう。

 


そしてもう1つの理想型がメルドーとの『ロング・アゴー・アンド・ファー・アウェイ』だ。即興について“己のインスピレーションが命ずるなら躊躇なく枠から逸脱してゆく”という志向性から成される彼らのデュオは、時代にもスタイルにも拘束されない自由が横溢している。それは、70年代半ばにスタートしたヘイデンのデュオ・ワークの、もっとも完成に近づいた姿だったかもしれない。

 




【リリース情報】
チャーリー・ヘイデン~デュオの真髄
2022年8月10日(水)発売
UHQCD仕様 各\1,980(税込)
https://store.universal-music.co.jp/artist/charlie-haden/

チャーリー・ヘイデン『クロースネス』UCCU-45048
チャーリー・ヘイデン『ザ・ゴールデン・ナンバー』UCCU-45049
チャーリー・ヘイデン&ハンプトン・ポーズ『アズ・ロング・アズ・ゼアズ・ミュージック+2』UCCU-45050
チャーリー・ヘイデン&ハンク・ジョーンズ『スピリチュアル』UCCU-45051
『チャーリー・ヘイデン&ジム・ホール』UCCU-45052
チャーリー・ヘイデン&ケニー・バロン『ナイト・アンド・ザ・シティ』UCCU-45053
チャーリー・ヘイデン&パット・メセニー『ミズーリの空高く』UCCU-45054
チャーリー・ヘイデン&ゴンサロ・ルバルカバ『トーキョー・アダージョ』UCCU-45055
チャーリー・ヘイデン&ブラッド・メルドー『ロング・アゴー・アンド・ファー・アウェイ』UCCU-45056
チャーリー・ヘイデン&ハンク・ジョーンズ『カム・サンデイ+1』UCCU-45057
https://www.universal-music.co.jp/charlie-haden/