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【連載】スタンダード名曲ものがたり 最終回 ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【最終回】

ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ
You'd Be So Nice To Come Home To
作詞・作曲:コール・ポーター
1943年


今ではそういうことも少なくなりましたが、昭和の時代は映画も音楽も、外国から輸入されてきたものには「邦題」がつけられるのが常でした。ジャズ・スタンダードの曲名もしかり。

〈アイ・キャント・ゲット・スターテッド〉=「いい出しかねて」、〈サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー〉=「優しき伴侶を」など、かつてのスタンダードの邦題は、極端な意訳ながらなんとも趣のあるものが少なくありませんでした。

しかし一方で、「これ、誤訳では?」と言われながらも、そのまま定着してしまった曲もあります。〈ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ〉もその1つ。

コール・ポーターが1943年の映画『サムシング・トゥ・シャウト・アバウト』のために書いたこの曲は、長らく「帰ってくれたらうれしいわ」という邦題で呼ばれていました。そこから連想されるのは、「どこかへ行っていたあなた(君)が、家に帰ってきてくれたらうれしい」という状況ですが、しかしこの訳、文法的にちょっとおかしいのでは?…というのは、わりと早くから言われてきたことでした。正しくは、「私が帰ってきた時、あなたが家にいるのはなんて素敵なことだろう」ではないか、と。

また歌詞の意味合いも、本来はライト・テイストの小唄なのですが、作られたのが戦時下という時代背景も手伝って――実際の映画のストーリーは戦争とはまったく関係ないにもかかわらず――多くの人が「戦地からあなたが無事に帰ってきてくれてうれしい」というふうに受け取り、そのおかげでヒットしたとも言われています。もっともポーターは愛国者だったので、暗にそのような意味を歌詞に込めたということも十分あり得ますが。

しかしながら誤解の最大の要因は、曲想ではないかというのが僕の考えです。マイナーとメジャーがシームレスにつながる、哀愁を帯びた旋律と和声は、軽い口説き唄には立派すぎて、人々はついそこに深刻な意味を込めたくなった…それほどにこの曲の訴求力は強く、だからこそヴォーカル同様にインスト・ヴァージョンも多いのではないでしょうか。

とはいえ、長く親しまれてきた邦題に今さらイチャモンをつけるのも野暮というもの。それに、「帰ってくれたらうれしいわ」って、語呂もいいですしね。


●この名演をチェック!

ヘレン・メリル
アルバム『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』(EmArcy)収録


この曲の決定版といえば、これ。この時メリルはまだ24歳でしたが、この歌唱によって畢生ともいえる偉業を成し遂げてしまいました。あらかじめ書かれたかのようなブラウンのトランペット・ソロ、キャッチーなクインシー・ジョーンズのアレンジも最高です。




アート・ペッパー
アルバム『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』(Contemporary)収録

特段の仕掛けはなくとも、ジャズは名手が集まればそれだけで名演が生まれるという好例。バックを務めるのは当時のマイルス・バンドのリズム・セクションで、ペッパーは彼らとこの時初対面でしたが、完璧に歌いきった見事なソロを聴かせます。




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