COLUMN/INTERVIEW

【特集】2021年、私の愛聴盤 ~ 柳樂 光隆

毎年恒例、BLUE NOTE CLUB執筆陣による今年愛聴したジャズ・アルバム3枚をご紹介します。
第五回目は、21世紀以降のジャズをまとめたジャズ本「Jazz The New Chapter」監修者であり、音楽評論家の柳樂光隆さんです。

文:柳樂 光隆


テレンス・ブランチャード『Absence』(Blue Note)


ジョナサン・ブレイク『Homeward Bound』(Blue Note)


チャールス・ロイド『トーン・ポエム』(Blue Note)


2021年はブルーノートがリリースしたベテラン・中堅のリーダー作をよく聴いていました。ベテラン・中堅とはいっても、懐古でも保守でもないです。そのバンドには若手も含まれていて今の感覚も入りつつも、トレンドに左右されるわけでもなく、どの作品もフレッシュでありながら普遍的な響きをしていると感じられるのが特徴でしょうか。同じことはベテランのジョー・チェンバースやDrロニー・スミス、中堅のビル・シャーラップなどのリリースにも言えたことだと思います。それら全てが今年の愛聴盤でした。

ドン・ウォズ以降、こういった作品が増えていて、ストリーミングで爆発的に聴かれるかはわからないけど、10年後も20年後も残るような作品のリストがどんどん厚くなっているのを感じます。そして、そういう作品はレコードで手に入れて、ずっと聴き続けたいみたいな気持ちが芽生えますが、それに出来る限り応えようとしているのも今のブルーノートの素晴らしさだと思います。

2021年もブルーノートが長く付き合える作品をリリースしてくれたこと、そして、ベテランや中堅の新たな良作を積極的に残してくれていること、はブルーノート・ファンの自分としては本当にうれしいことでした。

テレンス・ブランチャードがここにきて、最高傑作にもなりそうな充実した作品を作った辺りに今のジャズ・シーンの面白さを感じる。ストリングスとの共演というのもウェイン・ショーターの作品集というのも大きなトピックだが、それよりも自分よりずいぶん年下の世代との融合がかなり進んで、バンドのメンバーの個性が作品に効果的に作用するようになったことが今回の成功の最大の要因だったように思う。新しさではなく、調和、もしくはそれぞれの意見が採用していると感じられる民主的な環境があるのではないかと想像しながら聴いた。ファビアン・アルマザンやジョシュア・クランブリーといった完成度の高いリーダー作を発表するトップ・プレイヤーが実力を発揮すれば、そりゃ作品のクリエイティビティは高まるというもの。そういう意味では、ウェイン・ショーターの曲を演奏したことよりも、ウェイン・ショーターがやってきたそういった優れたプレイヤーの起用のしかた、みたいなところを受け継いだ作品とみてもいいのかもしれない。ケニー・ギャレット『Sounds From Ancestors』と並ぶ今年屈指の作品。



2021年は中堅と若手がタッグを組んだ良作を家ではよく聴いていた。ひとつはピアニストのオリン・エヴァンスがサックス奏者イマニュエル・ウィルキンス、ヴィセンテ・アーチャー、ビル・スチュワートと録音した『The Magic of Now』。もうひとつは名ドラマーのジョナサン・ブレイクがジョエル・ロス、ダヴィ・ヴィレージェス、そして、イマニュエル・ウィルキンス、デズロン・ダグラスと録音した『Homeward Bound』。20代の若手と、40代、50代との共演だが、そこにヒップホップ的な要素が入ました、とではなく、両作とも割と真っ正面からコンテンポラリー・ジャズに取り組んでいるわけだが、中堅の磨き上げられた個性とそれゆえの安定感が、野心的な若手と組み合わさると、一気にフレッシュに聴こえるのが新鮮だった。それだけイマニュエル・ウィルキンスやジョエル・ロス、ダヴィ・ヴィレージェスらには今までにはない強烈な個性があることの証左でもあるとも思った。ギミックなしにも関わらず、2021年にリリースされた最も芳醇で刺激的な“ジャズ・セッション”作品だったと思う。



チャールス・ロイドは83歳になったが、セッションの場で、あらゆる世代と同じ土俵で、いちミュージシャンとして演奏している。超人だと思う。ECMからリリースしていた頃は、若いころとは違う枯れた味わいや徹底的に削ぎ落としたところに良さを感じていたが、近年のブルーノートからのリリースを聴いていると、強く出たいところでは強く出るし、音色も表現も多彩、情感も多彩で、普通にパワーアップしていて、また新たな魅力を獲得しているのが本当にびっくり。ECM時代にはレーベル・カラーに合わせて押さえていた表現方法もあったかもしれないが、ブルーノート移籍でクリエイティビティを解放したことが、新たな向上心やチャレンジへの欲求を生んでいるのかも、みたいな想像もしてしまうほど。エリック・ハーランドやビル・フリゼールが所属するスーパー・バンドであることや、オーネット・コールマンやモンク、ガボール・ザボの曲を取り上げた選曲の妙などもあるけど、そんなことを忘れて、チャールス・ロイドの表現として聴かせてしまうこの音楽の豊さには、感動とか、尊敬とか、畏怖とかではなく、包み込まれてるような、ただただ身を委ねてしまうのみ、みたいなマジカルな魅力があります。ここにはスピリチュアルもメディテーションもあるのに、それを飲み込んで、軽やかに鳴らしてしますスケールの大きなジャズ・サウンドは他に誰もやっていない新たな表現だと思っています。