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【特集】2021年、私の愛聴盤 ~ 原 雅明

毎年恒例、BLUE NOTE CLUB執筆陣による今年愛聴したジャズ・アルバム3枚のご紹介。
第四回目は、Newest ECMで執筆頂いている音楽ジャーナリスト、原雅明さんです。

文:原 雅明

ケニー・ギャレット/ Sounds from the Ancestors (Mack Avenue)


マカヤ・マクレイヴン / ディサイファリング・ザ・メッセージ (Blue Note)


ナラ・シネフロ / Space 1.8 (Warp Records)


 40年を超えるキャリアを誇り、リーダー作としてはこれが20枚目となるケニー・ギャレットの『Sounds from the Ancestors』だが、ヴェテランの妙味といった形容とは無縁のアルバムだった。オープニングを飾り、ヴァージョン違いでラストにも収録された“It's Time to Come Home”という曲が特に素晴しく、何度も聴きたくなった。チューチョ・バルデスとの演奏経験から生まれたというこの曲は、当初アフロ・キューバンの心地良いグルーヴにギャレットのテナー・サックスは伸びやかにテーマを吹いているのだが、次第にフレージングは短いスタッカートの持続に変わり、やがてディジェリドゥのような響きも伴ってプリミティヴで呪術的なグルーヴが加わる。またリズムを切っていく音はスクラッチのようでもある。さらに、そこにヨルバ語のチャントが加わると、音楽は既に別の場所へと移動している。このアルバムでは、古いスピリチュアルやゴスペルからロイ・ハーグローヴのRHファクターまでが、アート・ブレイキーからトニー・アレンまでが緩やかに繋がってもいる。また、アルバム・タイトル曲ではドワイト・トリブルをヴォーカルに招き、ロサンゼルスのジャズとギャレットのルーツであるデトロイトのジャズが交錯する。ブラック・ミュージックの歴史を描こうとするジャズ・アルバムは今年も多かったが、ポジティヴで説得力がある表現という点で、このアルバムは抜きん出ていた。

 

 

 マカヤ・マクレイヴンの『Deciphering The Message』は、ミックステープ感覚でBlue Noteの昔の音源に接する気軽さと、聴き込むほどに発見がある深いリスニングの楽しさを、絶妙なバランスで両立させた。オリジナルの音源の素材と、ジェフ・パーカーやジョエル・ロスら、マクレイヴンが信頼を寄せるミュージシャンたちが新たに演奏で加えた要素とが、シームレスに繋がっている。異なる素材を混ぜることは、DJ/プロデューサーたちがリミックスやリエディットによって発展させてきた手法だが、マクレイヴンはミュージシャンの側からその領域に積極的に足を踏み入れた。例えば、ケニー・ドーハムの“Sunset”はダブに、クリフォード・ブラウンの“Wail Bait”はアフロビートに変換するのだが、生身のミュージシャンによる演奏も加えられ、その関係性も感じられるので、単にビートを差し換えたリミックスとは違っている。古い音楽を聴く際に、現在の音楽と対比させてイメージすることがあるが、それを作品化したようなアルバムだともいえる。

 

 

 ロンドンのジャズ・シーンで活動するカリブ系ベルギー人の作曲家、ハープ奏者で、モジュラーシンセも演奏するナラ・シネフロのデビュー・アルバム『Space 1.8』は、UKジャズという枠だけに収まらない拡がりのある音楽で、現在のジャズが表現しようとしているいくつかの側面を最もヴィヴィッドに描き出していた。ドロシー・アシュビーやアリス・コルトレーンからの影響だけではなく、現在のエスペランサが表現する音楽による癒しと重なるところもある。音響心理学や音の物理学も学んできたという20代前半の彼女は、ジャズのアンサンブルの中でミュージシャンとして振る舞うこともできれば、フィールド・レコーディングやモジュラーシンセのサウンドを重ねるオーディオプロセッシングも一人でこなす。ミュージシャンとしても、サウンド・アーティストとしても可能性を示しているが、何より繰り返し聴くことに誘う音楽だった。