COLUMN/INTERVIEW

【連載】スタンダード名曲ものがたり 第21回 A列車で行こう


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


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【第21回】
A列車で行こう
Take The A Train
作曲:ビリー・ストレイホーン
作詞:ジョヤ・シェリル
1939年


“ジャズの父”と称されるデューク・エリントンは、もちろん本人も天才的な音楽家でしたが、優れた手兵を見出し活かす名伯楽でもありました。ハリー・カーネイ、ジョニー・ホッジス、ポール・ゴンザルヴェス、レイ・ナンス、バーニー・ビガード、ジミー・ブラントン…。

中でも作曲とアレンジで楽団に大きく貢献し、リーダーをして「彼は私の右手であり左手であり、私の後頭部のすべての眼であり、私の脳波は彼の中に、彼のそれは私の中にある」とまでいわしめたのが、ビリー・ストレイホーンです。

ストレイホーンがエリントンに初めて会ったのは1938年の暮れ、23歳の時でした。当初彼は作詞家として雇ってもらいたく自作の詞を持参し、エリントンもそれを気に入り入団を認めたのですが、いつのまにか編曲や作曲を任されるようになってしまったとか。

1940年、そんなストレイホーンの名を一躍有名にする出来事が起こります。当時エリントンはASCAPという作曲家協会に加入していたのですが、その協会がラジオ局と係争を起こしたため自作を放送で流すことができなくなったのです。そこで彼はストレイホーンに曲を提供するよう要請。彼はそれまで書き溜めていた作品や新曲を差し出します。その中からバンドの新しいテーマ曲に選ばれたのが、〈A列車で行こう〉でした。

ニューヨークのブルックリン東部からハーレムを経てマンハッタン北部に至る地下鉄8番街急行、通称Aトレイン。一説によれば、ハーレムの自宅にストレイホーンを招く際、エリントンがくれた路線図に「Take The A Train !」と記してあったことからこの曲は生まれたとも。

しかし実は作曲者は、かつてのアイドルだったフレッチャー・ヘンダーソンのアレンジにあまりに似ているという理由で、1度はこの曲を廃棄していました。それをゴミ箱の中から見つけ出したのが、やはりリーダーから曲を提供するよういわれていた息子のマーサー・エリントン。すんでのところで歴史の闇に葬られるところから救われたこの曲は、今やエリントン楽団の、いや、ビッグバンド・ジャズの代名詞となっています。


●この名演をチェック!

エラ・フィッツジェラルド
アルバム『デューク・エリントン・ソング・ブック』(Verve)収録


エラの名高いソング・ブック・シリーズの1つ。彼女はエリントンとはこれが初共演でしたが、“ジャズの父”を前に臆することなく奔放なスキャットをきかせます。ディジー・ガレスピーとキャット・アンダーソンのトランペット・バトルも実にエキサイティング。



オスカー・ピーターソン
アルバム『ソロ!!!』(MPS)収録


こちらはソロ・ピアノによる〈Aトレイン〉。3分弱というコンパクトな演奏ですが、ここにはピーターソンの超絶的なテクニックのすべてが開陳されています。堅牢にして美しい彼のピアニズムを余さず捉えた録音も見事です。