COLUMN/INTERVIEW

【連載】スタンダード名曲ものがたり 第13回 オン・グリーン・ドルフィン・ストリート



世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第13回】
オン・グリーン・ドルフィン・ストリート
On Green Dolphin Street
作曲:ブロニスラウ・ケイパー
作詞:ネッド・ワシントン
1947年


1947年、MGM映画は、その前年の『郵便配達人は二度ベルを鳴らす』で一躍人気女優となったラナ・ターナーを主役に起用して『グリーン・ドルフィン・ストリート』という映画を公開します。イギリスの作家、エリザベス・グージが書いた同名の小説(当初は『グリーン・ドルフィン・カントリー』だったそうですが)を元にしたこの作品は、イギリスとニュージーランドを舞台に、四角関係のラヴ・ロマンス、先住民と入植者の争い、立身出世譚、信仰等々、様々な要素を盛り込んだ超大作。特に中盤に出てくる巨大地震のシーンは、その年のアカデミー特殊効果賞を獲ったほどで、邦題となった『大地は怒る』もこのシーンから採られたものと思われます。

この映画のメイン・テーマとして作られたのが、今回ご紹介する〈オン・グリーン・ドルフィン・ストリート〉です。作曲者のブロニスラウ・ケイパーはポーランド出身で、地元の音楽学校を卒業後はベルリンで活躍していましたが、ユダヤ系だったためナチスの台頭に伴ってパリ経由でアメリカに逃れ、MGM専属の作曲家となりました。アカデミー作曲賞を受賞した『リリー』をはじめ多くの映画音楽作品を残していますが、ジャズ系で有名なのはこの曲と〈インヴィテーション〉でしょうか。一方、あとから詞を付けたネッド・ワシントンはジャズ・ファンにはおなじみの巨匠。〈マイ・フーリッシュ・ハート〉、〈星に願いを〉、〈ニアネス・オブ・ユー〉など、彼が手掛けてスタンダード化したナンバーは数え切れないほどです。

しかしながらこの曲、映画公開に併せてリリースされたジミー・ドーシー版はそこそこヒットしたもののそれ以降はあまり注目されず、ジャズでも50年代半ば以降になってポツポツと取り上げられるようになった程度でした。その状況を一変させたのが58年のマイルス・デイヴィス版です。歴史的名盤『カインド・オブ・ブルー』と同じメンバーによる、叙情とスリルが混在したこの演奏は、楽曲が秘めていたポテンシャルを見事に引き出し、以降現在に至るまでこの曲は、ジャム・セッションでも頻繁に取り上げられる大スタンダードとなっています。


●この名演をチェック!

ビル・エヴァンス
アルバム『オン・グリーン・ドルフィン・ストリート』(Riverside)収録


ビル・エヴァンスはマイルスの上記アルバムにも参加していましたが、こちらは同じリズム・セクションによるピアノ・トリオ・ヴァージョン。ソロが全編ブロック・コードというあたりに、このピアニストの異能ぶりが垣間見られます。
 



マーク・マーフィー
アルバム『ラー』(Riverside)収録


個性的な歌唱で知られるマーク・マーフィーがアーニー・ウィルキンスの名アレンジにのせてきかせる名唱。ゆったりとしたバラード解釈は異色に思えるかもしれませんが、映画の中のオリジナルはこのテンポが採られています。