COLUMN/INTERVIEW

【インタビュー】ジャズ界の革命家!ハーピスト・ブランディ―・ヤンガーはなぜ注目されるのか?

8月13日に待望のメジャー・デビュー・アルバムである『Somewhere Different(邦題:サムホウェア・ディファレント)』をリリースしたハーピストのブランディ―・ヤンガー。アリス・コストレーンやドロシー・アシュビーの意志を継ぎつつも、全く新しいアプローチをクロス・ジャンル的に次々と生み出し「ジャズの革命家」との異名をほしいままにする彼女。
今ニューヨークで最も注目を集める彼女の今作にたどり着くまでの道のりを掘り下げた。前半と後半に分けて、ロング・インタビューを掲載する。


〈前半〉【インタビュー】ジャズ界の革命家!ハーピスト・ブランディ―・ヤンガーはなぜ注目されるのか?
https://bluenote-club.com/diary/338300?wid=67716

 

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インタビュー:柳樂光隆

――少し前の話から始めたいんですが、2019年にリリースした『Soul Awaking』について、聞かせてもらえますか?

実は2016年の『Wax&Wane』より前の2013年に作ったもの。作った時はまだ準備ができていないと感じていたから出さなかった。でも、『Wax&Wane』を出したら、ようやく『Soul Awaking』を出したいと思えるようになった。それに、とりあえず、これを出さないと次に進めない気がしたし、無駄にするには惜しい良い曲がたくさんあるアルバムだった。だから、手を加えず昔の音源のままリリースしました。

――スピリチュアル・ジャズ的なサウンドが印象的ですが、その中でマーヴィン・ゲイの「Save The Children」のカヴァーを収録してますよね。その意図について聞かせてもらえますか?

(サックス奏者の)ジミー・グリーンの娘のアナ・グリーンが2012年にコネチカット州で起きたサンディフック小学校銃乱射事件の被害者だった。あの曲はその時にアナに捧げる気持ちで演奏したもの。最初はリリースのことは考えてなくて、ジミー・グリーン本人には個人的に聴かせていたんだけど、最終的にアルバムに収録することになった。

――あなたは2012年に「He Has A Name(Awareness)」をbandcampで発表していていました。それもアメリカで起きた悲しい事件の被害者へに捧げる曲でした。そういったことを活動を通してやられている印象がありますが、どうですか。

たしかに表立って大々的に発言するってことを私はしてないけどね。「He Has A Name(Awareness)」は2012年に高校生のトレイヴォン・マーティンが銃殺されてしまった事件が大々的なニュースになる前に写真を見たら、自分の弟にすごく似ている気がして、胸に来るものがあった。マーヴィン・ゲイのカヴァーの時はアナのことを知っていたから、より個人的なことではあったのかもしれないけど、トレイヴォン・マーティンの時は自分からこの件について発言したいって気持ちがあったからリリースしました。

 


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――『Soul Awaking』ではジャズ・ハープ奏者のドロシー・アシュビーの「Game」のカヴァーをしてましたが、彼女はあなたが最も影響を受けたアーティストのひとりだと思います。以前、僕が取材したときもドロシー・アシュビーからの音楽的な影響の話をしてくれました。実はドロシーも社会的な問題に対して発言をしたり、音楽で表現をしたりする人でした。もしかしたらそういう部分でもあなたはドロシー・アシュビーがやっていることを引き継いでいるような部分があるんじゃないかなと思ったんですが、いかがですか?

ドロシー・アシュビーから引き継いだとまで言えるかはわからないけど、影響は受けたと思う。彼女は自身のラジオ番組を持っていて、そこでは社会的な問題に関して恐れずに発言をしていた。その発言がハープ奏者としての自身の活動に影響を与えてしまうかもしれないとかも一切考えずに言いたいことを言っていた。ラジオに関してはいろいろ事情があって、なかなか音源を聴くことができないこともあって、世の中では知られていないのが残念なんだけど。それに彼女は劇団を運営していた。劇団の名前はアシュビー・プレイヤーズ。ドロシーの夫のジョン・アシュビーも一緒に運営していたはず。アシュビー・プレイヤーズは俳優のアーニー・ハドソンを輩出していることで知られてる。彼はゴーストバスターズにも出演している俳優だから、それをきっかけにドロシー・アシュビーの活動も知られるようになったと思う。アシュビー・プレイヤーズで行われていた演劇で取り上げるテーマは今の私たちの問題と全く同じような、福祉や貧困や不平等、人間の生き方についてだった。そういう部分で私はドロシーからすごくエンパワーメントされていると思う。私は彼女ほど、直接言葉にするってことはしてないないけど、ステイトメントを音楽に載せているって部分では彼女と同じと言ってもいいのかもしれない。

ーー言葉を介さずに音楽で表現していて、それが伝わるところにあなたの素晴らしさがあると僕は感じています。同じ文脈の話を続けたいんですが、あなたは2020年に「Lift Every Voice & Sing」をシングルで発表していますよね。この選曲にも意図があると思いますが、いかがですか?

私たちのようなブラック・アメリカンにとっては毎週のようにいたるところで歌われていて、誰もが知っている曲。大学のフラタニティ(※アメリカの大学にある特殊なクラブのような集団。男性の集まりはフラタニティ、女性の場合はソロリティと呼ばれる)だったり、教会だったり、何かのイベントだったり、人生においてずっと歌ったり演奏してきた曲。そんな感じですごく大事な曲だから、自分が死んだ後にもハープのアレンジとして存在していてほしいと思ったから録音した。そうすれば、その後のハーピストたちがみんな演奏できるようになるから。今のところこの曲をハープで演奏するためのアレンジが存在しない。それじゃ、誰も演奏しようって思わないから。だから、ずっと「いつか自分がやらなきゃ」って思っていた曲でもある。タイミング的にはBlack History Monthの2月までに出したいって思っていたんだけど、パンデミックがあって、いろんなことが起きてしまった。私はハーレムに住んでいるんだけど、Black Lives Matterのプロテストが家の近くでもいつも行われていたり、Juneteenth(奴隷解放宣言を祝うアメリカの祝日)が祝日になったってことを考えても、黒人への差別に対する意識がすごく高まっているのを感じていた。そういう時期だったのもあって、「Lift Every Voice & Sing」を演奏することは自分たちにとってはなんてことない当たり前のことなんだけど、敢えて今、そういうことをやることには意味があると思ったのもあって、リリースすることにした。

 


――パンデミックの話題が出たので、コロナ禍に出したデズロン・ダグラスとのデュオによる『Force Majeure』のことも聞かせてもらえますか?

これは無計画なプロジェクトで、もともとデズロン・ダグラスとデュオコンサートをやる予定があったんだけど、パンデミックで中止になっちゃった。試しにFacebook liveでストリーミングでやってみたら、リスナーからの反響も大きくて、心が癒されたってコメントも多かった。「次はいつ?」って感じのコメントも多くて、「じゃ、来週ね」って感じでそれを繰り返してたら、継続的にやっていくようになった。

すごく多くの人がコロナ禍で影響を受けていた。それによってお父さんもお母さん仕事に行けないし、子供も学校にいけないからみんなが家にいるって状況があって、それがコロナ禍ゆえのストレスを生んでいたりしてた。そういう人たちにとって音楽が光になったらいいなと思ってやっていたんだけど、結果的には自分たちにも光が当たるようなものになったと思う。自分たちもこの一年半、様々なことでストレスがあった。警官が黒人を殺すってことは自分のコミュニティにとってはありふれたことだったんだけど、今回は黒人以外の人たちが「人間はなんて差別主義者なんだ…」って感じで、ようやく私たちのコミュニティのことを知ってくれたようなところもあった。でも、それによって変な意味での重圧感みたいなものを私たちは感じていたのもあったのも正直なところ。そんな中でいかに正気を保つかって意味では、ストリーミング・ライブをルーティンでやっていたことは自分たちにとっては救いになったと思う。そしたら、ある時にインターナショナル・アンセムのスコッティ・マクニースから連絡が来て、ぜひリリースしたいって言われたから、アルバムになったって感じかな。

――『Force Majeure』にはファラオ・サンダースの「The Creater Has A Master Plan」のカヴァーが入っていますよね。ファラオ・サンダースと言えば、アリス・コルトレーンのコラボレーターでもあります。あなたはファラオと実際に共演もしていると思いますが、ファラオについての話も聞かせてもらえますか?

ディジーズではじめてファラオに会った日に彼と話をしていたら、私が話した一言にファラオが「お!」って感じで反応して、「じゃ、明日一緒に演奏しよう」って言ってくれた。もう漏れそう!って感じだった(笑 それで次の日に一緒に演奏することができた。

2回目はポートランドのフェスティバルでアリス・コルトレーンのトリビュート・ライブだった。ラヴィ・コルトレーン、レジー・ワークマン、アンドリュー・シリル、ジェリ・アレンとファラオ。私が座る椅子が王座みたいなゴージャスさだったから「私って王様?」みたいなジョークを言ったのを覚えてる(笑 ファラオやレジー・ワークマンと一緒のバンドでアリスのトリビュートの演奏をしたことは私にとっては言葉にならない出来事だった。

アーティストとしての根底にある考えやルーツを聴かせてくれたブランディ―。次週はいよいよ新作に込められた思いに迫る。


【リリース情報】
ブランディ―・ヤンガー『サムホウェア・ディファレント』

好評発売中
品番:UCCI-1051
価格:\2,860 (TAX IN) [SHM-CD]
https://Brandee-Younger.lnk.to/SomewhereDifferentPR

【収録曲】
1. リクラメイション / Reclamation
2. スピリット・ユー・ウィル / Spirit U Will
3. プリテンド / Pretend
4. サムホウェア・ディファレント / Somewhere Different
5. トゥウィンタールード / Twinterlude
*日本盤ボーナストラック
6. ラヴ&ストラグル / Love & Struggle
7. ビューティフル・イズ・ブラック / Beautiful Is Black
8. オリヴィア・ベンソン / Olivia Benson
9. ティックルド・ピンク / Tickled Pink

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