COLUMN/INTERVIEW

【連載】Sampling BLUE NOTE 第13回 Lee Morgan / Absolutions


“史上最強のジャズ・レーベル”と称されるブルーノート。その一方で、“最もサンプリングされてきたジャズ・レーベル”と言っても過言ではない。特に1970年代のBNLA期に発表されたソウルフルかつファンキーな作品は、1980年代以降ヒップホップやR&Bのアーティストによって数多くサンプリングされた。このコラムは、ジャズだけでなくクラブ・ミュージックにも造詣の深いライターの小川充が、特に有名な20曲を厳選し、その曲の魅力やサンプリングされて生まれた主要トラックを解説する連載企画(隔週更新)。

文:小川 充


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【第13回】
Lee Morgan / Absolutions
リー・モーガン / アブソルーションズ
AL『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』収録



◆サンプリング例
A Tribe Called Quest feat. Busta Rhymes / Oh My God
Artifacts / Collaboration Of Mics


サンプリングにもいろいろな形があるが、長い曲の中でほんの一瞬を切り取る場合がある。そうした一瞬を見逃さず、閃きから新しい曲へと導いていくあたりがDJやトラックメイカーの才覚でもある。その一例として、<ブルーノート>を代表するトランペット奏者のリー・モーガンの「Absolutions」を取り上げたい。モーガンは<ブルーノート>に数多くの作品を残し、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの一員としても活躍するが、代表作と言えば『The Sidewinder』(1963年録音)となるだろう。8ビートを取り入れた新たなジャズのスタイルを切り開き、明快でダイナミックなテイストで大ヒットを記録したが、それ以降はジャズ・メッセンジャーズの同僚のウェイン・ショーターの影響などで、モードや新主流派に接近した作風へと変化していく。モード~新主流派時代のモーガンの作品は重厚で、演奏も長尺のインプロヴィゼイションを展開するようになる。『The Sidewinder』のような親しみや取っ付きやすさはなくなる一方で、プレイヤーとしては充実期に入り、演奏にはシャープな切れ味や深み、エモーションの発露や凄みが増していった。

そうした中で1972年2月18日、ライヴ演奏中の合間に愛人のヘレン・モアに拳銃で撃たれて死亡する。劇的な一生の幕を閉じるモーガンだが、その最終期にあたる1970年7月のライヴ録音が『Live At The Lighthouse』である。カリフォルニアにあるライトハウスでの録音で、ここではほかにもエルヴィン・ジョーンズやグラント・グリーンの名ライヴが生まれている。クインテット演奏でメンツはハロルド・メイバーン(ピアノ)、ジミー・メリット(ベース)、ミッキー・ローカー(ドラムス)、ベニー・モウピン(テナー・サックス、フルート、バス・クラリネット)。ジャズ・メッセンジャーズ時代の同僚でもあったメリットが作曲したのが「Absolutions」で、もともとマックス・ローチの『Members, Don’t Git Weary』(1968年)で演奏されたナンバー。ローチとメリットのほかにスタンリー・カウエル、チャールズ・トリヴァー、ゲイリー・バーツ、アンディ・ベイらが参加したアルバムで、スピリチュアル・ジャズやブラック・ジャズの名作の1枚に数えられる。ここでは「Absolutions」は5分弱の演奏だったが、『Live At The Lighthouse』ではライヴ録音ということもあって、何と20分近い長尺演奏へと変わっている。『Live At The Lighthouse』はLP2枚組で収録曲は4曲のみ(後年にCDボックス・セットで13曲収録した完全版が発表された)。どの曲も20分弱の長尺で、モーガンのみならず各メンバーのインプロヴィゼイションがじっくり録音されている。ほかに「Nommo」という曲を収録するが、こちらもメリットの作曲でマックス・ローチ楽団でも演奏していて、このグループではモーガン同様にメリットも重要な鍵を握っていたことを示している。

Lee Morgan / Absolutions


この「Absolutions」をサンプリングした例は多くなく、ア・トライブ・コールド・クエストがバスタ・ライムズをフィーチャーした「Oh My God」(1993年)と、エル・ダ・センセイとテイム・ワンによるアーティファクツの「Collaboration Of Mics」(1997年)くらいしかない。そもそもモード・ジャズや新主流派ジャズはジャズ・ファンクやソウル・ジャズのようにサンプリング向けではなく、かつ長尺のライヴ・アルバムとなればなおさらサンプリングしづらいものだ。そうした中で「Absolutions」をサンプリングしたのは、主役であるモーガンのトランペットではなく、脇を固めるメリットの重厚なベース・ラインが魅力的に映ったからだろう。「Oh My God」ではメリットのベース・ラインを切り取ってループさせていて、「Collaboration Of Mics」ではベースとメイバーンのピアノ・フレーズのコンビネーションが用いられる。どちらもほんの短いフレーズをサンプリングしているのだが、そうした一瞬からひとつの楽曲まで膨らませるのがサンプリングの醍醐味でもあるのだ。

A Tribe Called Quest feat. Busta Rhymes / Oh My God


Artifacts / Collaboration Of Mics

 

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リリース情報
リー・モーガン 『コンプリート・ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』
2021年8月20日発売
UHQCD 8枚組:UCCQ-9583/90 \13,200 (tax in)
ご購入はこちら https://store.universal-music.co.jp/product/uccq9583