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【連載】スタンダード名曲ものがたり 第12回 ナイト・アンド・デイ


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第12回】
ナイト・アンド・デイ
Night And Day
作詞・作曲:コール・ポーター
1932年


いうまでもなく、アメリカン・ポピュラー・ソングの作曲家は皆それぞれ独自の書法を持っているわけですが、中でもコール・ポーターの作品は個性が際立っているように思われます。特にコード進行。この時代の作曲家の作品はトニック・コード(キーがCならドミソの和音)ではじまることが多いのですが、ポーターの代表曲はそう素直には行かずひねってあるものが目立つのです。〈オール・オブ・ユー〉、〈ホワット・イズ・ディス・シングズ・コールド・ラヴ〉、〈アイ・ラヴ・ユー〉…今回ご紹介する〈ナイト・アンド・デイ〉もそんなひねりの効いた曲です。

〈ナイト・アンド・デイ〉は1932年、フレッド・アステアが主演したミュージカル『ガイ・ディヴォース (陽気な離婚)』の挿入歌として書かれました。この舞台は2年後、やはりアステアの主演で映画化されましたが、タイトルは『ガイ・ディヴォーシー (陽気な離婚者)』(邦題は『コンチネンタル』)に変更。音楽も〈ナイト・アンド・デイ〉だけを残し、すべて別作家のものと入れ替えられてしまいました。

しかし逆に、〈ナイト・アンド・デイ〉だけが流用されたという事実は、この曲がいかに多くの人々の心に残ったかの証となるでしょう。先に述べたようにこの曲は冒頭部分にちょっとひねりがあるのですが、魅力的なのはむしろその次、9~12小節の部分。ベース・ラインが半音で降りてくる進行はこの時代の楽曲としてはなかなか斬新で、しかもそこはかとない切なさも感じさせてくれます。それゆえにでしょうか、この〈ナイト・アンド・デイ〉は他のスタンダードとは少々趣の異なる特質――大仰なイージー・リスニング的アレンジにも、コンテンポラリーな解釈にも耐え得る柔軟性と強靱さを兼ね備えているように思えます。

ちなみにケイリー・グラントが主演した伝記映画のタイトルにはこの曲名が冠されていましたし、またやはり伝記映画の『五線譜のラブレター』でもこの曲絡みのエピソードに少なくないスペースが割かれていました。多くの名曲を残したポーターですが、その中でもこれは特別な1曲といってもいいかもしれませんね。


●この名演をチェック!

チャーリー・パーカー
アルバム『ナイト・アンド・デイ』(Verve)収録


ジョー・リップマン率いる迫力満点のビッグバンドをバックにパーカーが吹きまくる名演。トランペット、ピアノのソロを引き継ぎ、満を持してという感じで出てくるアルト・サックスのソロは、まさに即興の王にふさわしい貫禄です。



チック・コリア
アルバム『夜も昼も』(ECM)収録


ミロスラフ・ヴィトウス、ロイ・ヘインズとの強力トリオによるライヴ・パフォーマンス。〈サマー・ナイト〉からのメドレーで、伸びやかさとスリルが絶妙のバランスで融合したこの演奏は、数多あるピアノ・トリオ・ヴァージョンの中でも屈指のものといえるでしょう。