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【連載】スタンダード名曲ものがたり 第7回 ラヴ・フォー・セール


世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第7回】
ラヴ・フォー・セール
Love For Sale
作詞・作曲:コール・ポーター
1930年


〈ラヴ・フォー・セール〉。和訳すると「売り物の恋」…あまりにストレート過ぎて、歌詞を知らない人は、これはなにかのメタファーであろうと想像されるかもしれませんが、しかしこれ、そのものズバリ、娼婦の歌であります。

この曲を作ったコール・ポーターは、石炭と材木を扱う大富豪の孫でした。幼少時からヴァイオリンやピアノを嗜み、法律を学ぶためエール大学~ハーバード大学に入るも結局音楽の道へ進み、しかし最初は鳴かず飛ばずで、にもかかわらずパリに豪華なアパートを持ち裕福な寡婦と結婚して悠々自適の暮らしを送る――いわゆる、ええとこのボンボンです。

そういう人種は、ともすると退屈な日常に飽き足らなくなり、反道徳的なものに憧れるもの。ポーターにもその傾向があり、それは彼の作品にもしばしば反映されました。たとえば1930年の『ザ・ニューヨーカーズ』。これは、社交界の令嬢と密造酒売人の恋を柱に、ナイトクラブ、不倫、ギャング団といったニューヨークの裏社会を描いたミュージカルで、この〈ラヴ・フォー・セール〉もその中で、街娼が客引きをするシーンに登場します。

しかしさすがに露悪的過ぎたのでしょう。初演時からこの曲には悪評がたち、結局ラジオでの放送が禁止となってしまいます。ところが世の中何が幸いするかわからない。今度はそのことが逆に話題となって、〈ラヴ・フォー・セール〉はヒットしはじめるのです。

もっともこの曲が、一時的なヒットを超えてスタンダードとなったのは、音楽そのものが優れているからにほかなりません。長調と短調の精妙きわまりない交錯。ほのかに香るエキゾティシズム。そういうおもしろさがあるからこそ〈ラヴ・フォー・セール〉は、多くのミュージシャンが取り上げるようになったのです。

音楽の才能とあり余る財産の両方を与えるなんて神様は不公平? いや、そうでもないようです。ポーターは生涯同性愛者であることで悩んでいたし、また46歳の時には乗馬事故に遭い、以後両足が不自由になってしまうのですから。一生の中での人の幸せと不幸は、やはり等分であるようです。


●この名演をチェック!

ビリー・ホリデイ
アルバム『ソリチュード』(Verve)収録


この歌を地で行くような母親に育てられ、壮絶な少女時代を送ったビリー・ホリデイ。それゆえか、この歌唱の説得力は半端ありません。そのホリデイに寄り添うオスカー・ピーターソンのピアノも、控えめながら深い味わいを感じさせます。



キャノンボール・アダレイ&マイルス・デイヴィス
アルバム『サムシン・エルス』(Blue Note)収録


このアルバムの実質的リーダーであるマイルス・デイヴィスは、当時この曲を気に入っていたようで、レギュラー・グループでも録音を残しています。抑制的なマイルスのテーマ吹奏と速いパッセージを駆使したアダレイのアドリブの対比が見事!