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【DIGGIN’ THE VINYLS Vol.6】

ALICE COLTRANE / JOURNEY IN SATCHIDANANDA



(文:原田 和典)


・永遠不滅のジャズ・アイコン、ジョン・コルトレーン夫人・現役サックス奏者、ラヴィ・コルトレーンの母
・21世紀を疾走するビートメイカー/プロデューサー、フライング・ロータス(スティーヴン・エリスン)の大叔母
・ダイアナ・ロスのNo.1ヒット「ラヴ・ハングオーヴァー」の共作者、マリリン・マクラウドの姉
・マイルス・デイヴィス『クールの誕生』に参加していた歌手、ケニー・パンチョ・ハグード前夫人
・中条静夫や尾藤イサオが登場するミュージカル映画『アスファルト・ガール』で演奏シーンが拝めるベース奏者、アーニー・ファーロウの異母兄

アリス・コルトレーンを軸にした相関図を作れば果てしなく豪華で壮大なものとなろう。ビ・バップ・ピアノの象徴であるバド・パウエルに傾倒していた彼女が(1曲だけではあるが、最初期のプレイをラッキー・トンプソンのCD『Lucky Thompson in Paris 1960』で聴くことができる)、ジョン・コルトレーンと同居し始めたのは1964年のこと(65年結婚)。“すべての鍵盤を使ってみたら”というジョンのアドバイスを受けて演奏スタイルに変化を加え、さらにハープをレンタルして夫妻で新たな音作りを探求した。だが67年7月17日、ジョンは病没する。アリスは音楽活動を続ける道を選び、レコード制作会社“コルトレーン・レコーズ”も設立。ジョン存命時に注文していたカスタム・メイドのハープもようやく自宅スタジオに運ばれ、コルトレーン・レコーズとインパルス・レーベルの提携も成立したが、偉大なパートナーを失った痛みは精神的にも肉体的にも過酷そのもの、自虐行為に出たこともあったらしい。

旧友のベース奏者ヴィシュヌ・ウッド(旧名ビル・ウッド)の勧めで、ニューヨーク在住のインド人グール―(導師)であるスワミ・サッチダーナンダの知己を得たのは70年初頭のこととされる。“スワミ”は僧侶に対する敬称、ロック・ファンには69年8月の歴史的な“ウッドストック・フェスティヴァル”初日に祈祷した人物として知られているかもしれない。アリスは人生に対してポジティヴであることを学び、やはりサッチダーナンダの教えを受けていたザ・ラスカルズのフェリックス・キャヴァリエや画家ピーター・マックスらと交流した。ところで亡夫ジョンは(ぼくが以前ユセフ・ラティーフに問い合わせたところによると)50年代後半の時点ですでにインドに関心を持っていたという。シタール奏者ラヴィ・シャンカルへの敬意も高まるばかりで、65年に生まれた息子はラヴィと名付けられた。コルトレーン夫妻の会話に「インド」が登場する機会は頻繁にあったと想像できる。

当アルバム『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ』は、70年7月と11月のレコーディングで構成された。ついにインドの4弦楽器“tanpura”(tamburaと記されることが多い)を採用、ジョン・コルトレーン・クインテットで同僚だったファラオ・サンダースとラシッド・アリに加え、セシル・マクビー(当時ファラオのバンドに所属)、チャーリー・ヘイデン、ヴィシュヌ・ウッド(アラブ文化圏の11弦楽器であるウードで参加)など強力なミュージシャンをセッションによって使い分けた意欲作だ。滝が流れ落ちるごときハープの響き、強靭そのもの音色でオスティナート技法に打ち込むマクビーのベース、粘っこく鳴り続けるtanpura等が一種のトランス状態に導く。ちなみにtanpuraを演奏するトゥルシ(・レイノルズ。“トゥルシ”は比類なきものを示す)は、アリスと同じくサッチダーナンダの門下であり、童話作家としての一面も持つ。続く『ユニヴァーサル・コンシャスネス』以降のアリス作品はストリングス(弦楽合奏団)をフィーチャーし、多重録音の割合も増える。言い方を変えれば、インド楽器が鳴るなかでアリスをはじめとするミュージシャンがじっくり即興を展開する一発録りのアルバムは、『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ』しかない。

 


70年12月、アリスは5週間にわたってインドとスリランカを訪問。ボンベイ、ニューデリー、リシケシュ、マドラス等の空気や人々に接した。72年に入るとニューヨーク州ハンティントンからカリフォルニア州に移住、イニシエーションを受けてスワミ二・トゥリヤサンギーターナンダ名を得た(トゥリヤの意味するところは“transcendent lord's highest song of bliss”。シヴァ神による至福の歌といったところか?)。75年には「ヴェネディック・センター」、83年には「サイ・アナンタム・アシュラム」を開設、しだいにジャズ系よりも自作宗教音楽に比重を移して“ヒンドゥーの人”として生涯を終えた。アリスにとって大きな変化の始まりとなった作品、もっとベタにいえば“明確な印度風味の導入”を最初に刻んだ記念碑『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ』、本LPはダブル・ジャケットそのままの復刻であり、最近のアナログ盤にしては比較的珍しいことに内周までガッツリ溝が彫ってあるのも往年のインパルスそのままで嬉しい。レイクシア・ベンジャミンやブランディ・ヤンガーなど気鋭ミュージシャンがなぜアリスに尊敬の念を抱いているのか、デイヴィッド・バーンのレーベル“ルアカ・バップ”からなぜ彼女のコンピレーション・アルバムが登場したのか、どうしてあんなにサンプリングされているのかなど考えをめぐらせつつ、この『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ』に針を落としてみるのも一興であろう。


(作品紹介)
ALICE COLTRANE / JOURNEY IN SATCHIDANANDA

発売中
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