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ECMから新トリオ作品『Uneasy』をリリースしたヴィジェイ・アイヤーにインタビュー 「いつでも誰でも音楽を作ることは出来ます」


 ニューヨークを拠点に、さまざまなプロジェクトを常に抱え、精力的に活動を続けるピアニスト/コンポーザー、ヴィジェイ・アイヤー。新作『Uneasy』のリリース日にニューヨークの自宅からリモート・インタビューを受けてくれた。

——本作のジャケットは、自由の女神が写っているのが印象的です。こちらはご自分で選ばれたのですか?
「おそらく皆さんはマンフレートがECMのリリースの見え方、デザインに関しても気にしているのはご存じだと思いますが、彼には好きなデザイナーやカメラマンがいて、本作のジャケットの写真を撮ったカメラマンは韓国人でWoong Chul Anという人でECMの作品のジャケット写真の多くを手掛けている、僕のセクステット作品『Far From Over』もうそうですし、あれもニューヨークの写真でした。昨年の夏、ジャケットも含め本作の制作にあたり、マンフレートは写真の候補をいくつか送ってくれました。でも最初の7,8の候補は全然好きになれず、それを伝えたらこちらが届いたのです。この写真も好きとか嫌いとかはないのですが、何となく腹に落ちたというか、なにか気持ちが悪かったんです。というのは、アメリカ人が自分のアルバムのジャケットに自由の女神を載せるというのは何かビジネス的と言える強さがあり、何かの声明ととらえられてしまわないだろうか?と。
特に去年は、私にとってどういう意味があるのかということを考えました。通常、愛国的なシンボルとして考えられているものを、自分のレコードに入れること、私のレコードに入れるということがどういった意味があるのか、このような時代に。昨夏、私たちは、世界が終わってしまうかもしれないと思っていました、2021年まで生きられないかもしれない、と。  しかし、それに加えて楽観主義の高まりも一方では出てきました、多数の抗議活動が起こったのです、国中の正義のために、特に黒人のための正義のために。そう、人間のためにね。
実際には、すべてが1つであると同時に、パンデミックだけでなく、政治的な問題にも耐えていました。それは民族主義です。パンデミックのためにアメリカでは何十万人もの死者が出ましたが、それは必要のないことだったのです。50万人もの人が亡くなったのは、起こるべきではなかったことです。それは、有色人種に偏っていました。それは基本的に体系的な人種差別が関係しているのです。大量殺戮の政治。ですから、Black Lives Matterは、単に黒人の命の問題や警察との関係だけでなく、このような構造全体との関係において、黒人の命の問題を訴えていたのです。つまり、すべてがつながっていたのです。
この闘いとは何なのか、闘いとは何なのか、そしてライナーノートに書いたように、自由の女神についてのことも。自由の女神は、フランスからの贈り物なんです。奴隷制度を廃止した際に贈られたもので、皆の自由のためだけでなく、問題の制度廃止のためのモニュメントなんですね。しかし、結局のところ、私たちはまだそれを手にしていません......だから、基本的には、このすべてが私につながっているように感じられたのです。
 



——ニューヨークに移り住んで何年になるのですか。環境はいかがですか。
「1998年にニューヨークに移り住んだから、20年以上になります。ここではいろいろなことが起こりました。私は911の時にここにいました。その後、政治的にも社会的にも、あらゆることが起こりました。南半球に対する不寛容なヘイトクライムの数々......私に似た人たちのことですね。監視です。ニューヨークが持っているものは何だと思うか―何と言えばいいのか......
いくつかの...世界で最も偉大なアーティストたちがここにいます。そして、彼らはそれを糧にして、街のエネルギーを糧にしています、それには恐怖も含まれます。そして、痛みや汚れも。ええ、でもその理由のひとつはあるんですよ。
ここには人間らしさがあります......それは、人が密集しているからだと思います。
非常に密接な関係の中に放り込まれたようなものです。
それはもちろん、今では危険なことでもあります。地下鉄で出会った人や、出くわした人。などみんな経済的地位、クラスによって非常に分離されています。しかも、人種によって細かく分離されていて、システム的にその人らしい資質があるのです。
それはとても悔しいことですが、人々が混ざり合い、ある種の出会いをすることができる方法もあります。そして、お互いのことを発見することができるのです。

また、ニューヨーク以外の地域では、人々は音楽をジャンル別に考えますが、ここニューヨークではジャンルは毎日のように生まれています―さまざまな出会いとコミュニティから、ね。人々が一緒に何かを作る方法を見つけることで生まれるのです。なのでジャンル別に考えるといった感覚があまりありません。人との出会い、人との接触があるからこそ、私はクラシック音楽化のために曲を書いたりヒップ・ホップ・アーティスよと一緒に仕事をしたり、ご存じの通りダンス・カンパニーとコラボレーションするのです。
みんなで一緒に同じ空間にいるから、すべてが起こる、お互いに出会うことができるんです。
「一緒に仕事をしましょう、何かやってみましょう、実験してみましょう」となり、実際に何かしてみると、さらに大量の人が集まってきます。そういったエネルギーがあります。素晴らしいアーティストたちが同じ空間にいることで、そのようなことができるのです。
ですからタイショーンみたいな人と一緒に20年間仕事ができるのです。それは、私たちが20年もの間、お互いに近いところにいたからです。

——ある意味、ニューヨークはいろんな理由でいろんな方向に音楽を作るのに最適な場所なんですよね、良くも悪くも。
20世紀にはそうだったということですよね。21世紀はまだ若いのでまだわかりません。私はたくさんの都市に行ったことがないわけではありませんが、行ったことのない都市もありますし、ほかにもいい場所があるのではないかとは想像しています。私が知らないだけで、いろいろあるだろうと。しかし、私は確かに幸運にも、さまざまな異なるクリエイティヴなコミュニティの一部となってきました、それはニューヨークにいるからなのだと思います。
そしてまた、ニューヨークにいるということは、世界とよりつながっているということになります。ほかの国とも。というのは、ここで起こるようなことは地球上で共振していることになるからです。

今回のタイショーンとリンダのトリオ以外にも、いろいろなグループがありますが、そういった様々な別グループでの活動が可能になるのはやはりニューヨークならではという感じでしょうか。

——コミュニティというのは、このようなものを表現しているのであって、例えばセクステットであれば数百ものコンサートを重ねてきており、数年に渡ってものすごい数のコンサートをして、それで私たちはバンドを維持することができたということもあります。
最初のコンサートが2011年だったとして、もう数百回のコンサートをしていると、発見し続けることができるんです。新しいことが可能になります。同じメンバーであれば、みんな成長し続け、お互いのことをもっと知り、お互いに挑戦し続けることができます。
YouTubeにもいくつかアップされていますが、2018年だったかな、ツアーの途中にアップした動画がありますが、自分でも自分の書いた音楽に驚いたことがあります。これは余談でした、ごめんなさい。(笑)
そして、マーカスとステファンとのトリオがありますが、これは2004年から活動しています。そして、実はセクステットは、このトリオに3本のホーンを加えたものから始まったのですが、トランペット奏者は誰にすべきか思いつかず、頭を悩ませていたところ、ようやくマーカスのおじさんだ!と完璧な選択に気づいたことを覚えています。
グラハム・ハンズはマーカスの叔父さんなんです.....ご存じですよね。彼のことは90年代から知っていて、彼は私のヒーローであり、偉大なアーティストだと思っていました。しかし、それを知ったことで私たちは皆、同じようなものだと思ったのです。ネットワーク、そして、家族でさえも同じようなものなんだと。そこには相互のつながりのようなものがあり、その後、セクステットで加えてタイショーンとはトリオでも演奏するようになりました。しばしばタイショーンはマーカスの代役を務める、あるいは、お互いにサブを務めることもあります。ですから、実際には全員で演奏することもありました。これを見たことがありますか?
 


これは6年くらい前のものかな?私、マーカス、ステファン、タイショーンとマット・ブリュワーです。
そう、だから私たちは.....いつでも一緒にいるし、レコードを作るときも一緒なんです。
これは一つの例で、より大きなコミュニティへとつながっているという、より大きな意味を持っています。同じグループでツアーをしてたくさんのコンサートをすることもありますが、水面下ではもっと多くのことが起こっているのです。

 



この2つのライヴは同じ晩に行われました。
同じ日に同じ5人で2人のドラマーと他に数人加わっています。
なんだか少し混沌としていて、いつも素晴らしいというわけではないのですが、ただただ実験しようとしている感じです。
このようなことがたくさんあります。必ずしも計画があるわけではなく、一緒にプレイする喜びのようなものがあり、それはリスクでもあり、報酬ともいえるものなのです。
これは時間がかかりそうだし、そんなにうまくいかないかもしれないけど、やってみよう、という感じで、そういったことができる環境にあります。そしてこのようなプロセスの中で私たちは発見するのです。こうしたことは常に起こっています。ですから、このようにして結ばれた大切な友人たちとレコードを作るときには、いつでも準備ができているのです。このグループでもそうでした。何を演奏するかは重要ではない、私たちには準備ができていたのです。
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大好きな友人たちと一緒に音楽を奏でる、それができたらどんなに楽しいか、とてもうらやましい話です。

―そうですね。これらの演奏はThe Stoneという小さなクラブで演奏したものでここはジョン・ゾーンが始めたクラブで、もうそこにはないしジョン・ゾーンもまた今、異なる会場で様々なことをしているようですが、今は誰もどこでも演奏できていませんし。しかし、これらの場所はただのスペースであり、実験ができる場所であり、実際にはあまりお金にはならない場所でした。お金のためにやっているのではなく、私たちはこの音楽を愛し、この音楽ができることを愛していて、それが何かに進化できるという予感があるからやっているのです。それなりの報酬を得ることができるだろうと。そうすれば私たちはレコードを作り、ツアーを行い、私たちは世界中を旅することになり、多くの異なる聴衆とそれを共有することになり、そうすることでより良いものに磨きをかけることになるでしょう。毎晩、新しいことを発見してね。だから私は、これらのプロセスの両方が、ある意味ではより流動的な感覚のようなものなのです。
実際、誰でも一緒に音楽を作ることができます。それは事実です。本当に、いつでも誰でも座って音楽を作ることができます。あなたが何年も何年もかけて本当に何かを発展させるチャンスを得たとき、誰も予想できないようなものになっていくんですよ。

(作品紹介)
Vijay Iyer / Uneasy

https://store.universal-music.co.jp/product/352696/