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【連載】スタンダード名曲ものがたり 第3回 ボディ・アンド・ソウル (身も心も)



世の中に数多あるスタンダード・ナンバーから25曲を選りすぐって、その曲の魅力をジャズ評論家の藤本史昭が解説する連載企画(隔週更新)。曲が生まれた背景や、どのように広まっていったかなど、分かりやすくひも解きます。各曲の極めつけの名演もご紹介。これを読めば、お気に入りのスタンダードがきっと見つかるはずです。

文:藤本史昭


【第三回】

ボディ・アンド・ソウル (身も心も)
Body And Soul
作曲:ジョニー・グリーン
作詞:エドワード・ヘイマン、ロバート・サワー
1930年


昔、ある評論家が「ジャズに名曲なし。名演あるのみ」と言いました。即興演奏が大きな比重を占めるこの音楽の核心を突いた名言ですが、しかし実際にはジャズにも名曲はたくさんあります。たとえば今回ご紹介する〈ボディ・アンド・ソウル〉。「もっとも録音数の多いスタンダード」、「人気投票で必ずトップ3に入るバラード」――正確なエヴィデンスがあるのかどうかはわかりませんが、長きにわたってこの曲が、多くの人の心を捉え続けているのは疑いようのない事実です。

作曲者のジョニー・グリーンはハーバード大学で経済学を学び一時はウォール街で働いていたというエリートですが、音楽の面でも作曲、編曲、ピアノ演奏、指揮、音楽ディレクターと、なんでもござれの超才人でした。これはそんな彼がキャリアのごく初期(22歳の時)、イギリスの大ミュージカル女優、ガートルード・ローレンスのリクエストに応じて書いたもの(作詞はエドワード・ヘイマンとロバート・サワー)。曲を気に入ったローレンスの尽力によりまずかの地で大々的に紹介され、その後逆輸入の形でレビュー『Three’s A Crowd』の挿入歌に使われたことで、この曲は不滅のスタンダードの道を歩みはじめることになるのです(ちなみにジャズマンで最初に録音したのはルイ・アームストロングでした)。

では、なぜこの曲はそれほどまでに人々を魅了するのでしょう。それは、キャッチーなメロディ・ラインと、繊細きわまりないコード進行が互いを引き立て合っているからにほかなりません。マイナーからメジャーへ、メジャーからマイナーへと刻々移ろうハーモニーと、一度聴けばすぐに口ずさめてしまうテーマ。その相互作用がこの曲に、深い陰影と奥行きを与えているのです。

アドリブはできなくても、コードを弾いているだけで気持ちいい…こんな曲、そうそうはありません。


●この名演をチェック!

サラ・ヴォーン
アルバム『スウィング・イージー』(EmArcy)収録


デビューのきっかけとなったアポロ劇場のアマチュア・コンテストでサラが歌ったのがこの曲。それだけに愛着も深いのでしょう、彼女は生涯に何度も録音しています。これは円熟期の歌唱で、持ち前の美声と幅広い表現力をたっぷりと味わえます。
 




バド・パウエル
アルバム『ジャズ・ジャイアント』(Verve)収録


モダン・ジャズ・ピアノの創始者と言われながら、生涯神経の病に苦しんだバド・パウエルの絶頂期を捉えた録音。冴えたアドリブのイマジネーションと、そこはかとなく漂うユーモアと哀愁の交錯は、天才ゆえの苦悩の漏出かもしれません。