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チック・コリアのコンサートを体験したくなる最新ソロ・ピアノ作品『プレイズ』(後)

文:高見一樹


 第二部は、スティーヴィー・ワンダーの”Pastime Paradise”(邦名:楽園の彼方へ)で始まる。「スティーヴィーと私は親友で、多分‘72年ごろからの付き合いになるのかな。当時出ていたアルバムを聴いて、彼のメッセージや音楽にとても刺激されていた。彼もリターン・トゥ・フォーエヴァーなんかのコンサートに来ていたんだ。長い付き合いでよく会うんだけれど、いつだったか彼から、僕の曲も演奏してよ、と言われてそれはいい考えだと思った。」(Solo Piano)。英語のタイトルは、直訳すると「暇つぶしの楽園」。この曲でスティーヴィーは、過去に罪を犯した人の厭世的な態度と現世や来世での幸せを願う人の比較を描く。

チック・コリア「楽園の彼方へ」



第一部の構想とは少し趣の異なる二部は、本文中に引用した『Solo Piano : Portraits』

と似た構成になっていく。と同時にスティーヴィー以降の楽曲は全てチックのオリジナルと即興となる。ギタリスト、パコ・デ・ルシアのために書いた”Yellow Nimbus”について「一緒に演奏しているとパコの周りにはいつも、黄色い後光が見えた。」とチックは曲名の由来を説明する。チックの”スパニッシュ・ハート”とはまさにパコのことなのだろう。彼はフラメンコ界のアストル・ピアソラのような存在で、ジョン・マクラフリン、アル・ディメオラとのギター・トリオやチック・コリアとのアルバムを通じて、世界をその異能で魅了した。
 突然「説明させて。」と語りかけて次の演目について語り始める。「父には13人の兄弟姉妹(7対6!)がいてそれぞれが皆結婚していたから子供だらけ。祖父の家には日曜祝日になると皆が集まって大騒動。そんなとき親戚でやったゲーム。大半が音楽家で大抵ピアノが弾けたからお互いのポートレイトを描いた。その頃はポートレイトなんて言わなかった。ただお互いにおかしなメロディでからかっていた。だけどそれをもっと美学的にやれば、音楽学者がいうところのトーン・ポエムになる。」と言って、客席からボランティアを募り、彼 / 彼女の肖像を即興で描く。それからさらに「じゃあもう一つよくやっていたゲーム。親戚にはピアニストがいっぱいいたから、一台のピアノでジャムっていた。祖父の家にはファンキーな古い小さなアップライトが一台しかなかったから、即興で連弾を」楽しんだという。
後半、聴き手はまるで彼のおじいちゃんのリヴィングでくつろいでいるかのような錯覚に陥る。ここでもボランティアを会場から二人募っている。驚くべきことに偶然選ばれた二人はミュージシャンで、一人は日本でもよく知られたヤロン・ヘルマン。場所が場所なら山中千尋に小曽根真登場などという珍事もありうるチックならではの客席なのだろう。しかし、チックは即興に秀でたイリュージョニストのようだ。
 コンサートの最後を締めくくるのは『Children’s Songs』。70年代初期に彼が書き続けた作品をまとめた曲集からいくつか選んで演奏する。演奏前に「自由で喜びに満ちた子供の気持ちを描いた曲集」と曲集に込めた彼の気持ちを語る。第一番のオスティナートに聴こえるのは、モンクの”エピストロフィー”のような無邪気さだろうか、アントン・ウェーベルンのような、クールな音の鏡像的対称性が作り出す造形への憧憬なのだろうか。
 チックがこのコンサートに構成し、解き放った音楽の霊性は会場に満ちていく。彼がこの演奏会でメッセージしたのは、音楽という人の営み、演奏家と聴き手、作曲家と演奏家の分かち難い結びつきが築き上げた歴史とその未来が導く豊さだったのか。最後の余韻の中で我々がうっとり覚醒するのを彼は待っているに違いない。

チック・コリア 「チルドレンズ・ソング No.10」



本文中に引用した本人の発言の出典: 
Marian Mcpartland’s Piano Jazz Piano Jazz “Chick Corea” 
Chick Corea “Solo Piano ; Portraits”
明記のないものは、全てChick Corea “CHICK COREA / PLAYS “
参考音源
Matan Prat / “VARIATIONS ON A THEME BY SCARLATTI”

■作品情報 
チック・コリア 『プレイズ』 

2020年8月28日(金)日本先行リリース
デジタル/輸入LP:9月11日発売
https://jazz.lnk.to/ChickCorea_Plays
2MQACD  ¥4,840(税込)
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco8036


■チック・コリア各種リンク 
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