COLUMN/INTERVIEW

音楽という語彙を通じて「互いへのリスペクト」を声高らかに望む-グレゴリー・ポーターが新作に込めた想い


©Ami Sioux


(通訳:丸山京子)

本日待望のニュー・アルバム『オール・ライズ』をリリースしたグレゴリー・ポーター。2017年の『ナット・キング・コール&ミー』以来3年振り、オリジナル・アルバムとしては2016年の『希望へのアレイ』以来4年振りとなる本作は、ソングライティングに回帰して全曲をポーター自身が書き下ろし(1曲はトロイ・ミラーとの共作)、ジャズ、ソウル、ブルース、ゴスペルといった様々なジャンルをパワフルに融合させた渾身の一枚だ。また同時に、歌詞の内容はこれまで以上にメッセージ性の高いものとなっており、それが奇しくも昨今のアメリカの、ひいては世界の現状とリンクしているものとなっている。コロナ禍やBlack Lives Matterの流れが起こっている中リリースされる本作に込めた彼の想いとは、一体どのようなものだったのか。今回は彼が自宅からZoomを通して存分に語ってくれたインタビューをお送りする。

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Q:今作はゴスペルの影響が強く感じられ、これまで以上にジャズの垣根を超えたサウンド、という印象を受けますが、これは意図的にそうしたのですか? それとも制作過程で自然に生まれてきたのでしょうか?

G: 意図的に、ということは何もないよ。これまでのレコードもすべてそうだった。いつも考えるのは「今、自分は何を言いたいのだろうか?」ということ。それだけだ。「ミスター・ホランド」を書いたのは、今ああいうことに触れるのが「流行っているから」なんかじゃない。今のこのBlack Lives Matterの流れが起こるとは思ってもみなかった。そうではなく、実際に自分の人生に触れる出来事だったからだ。自分にとってのリアルな出来事を歌っているんだ。「コンコード」も世界中を旅し、グラミーや様々な賞を受賞し、ロイヤル・アルバート・ホールやウィーンのオペラハウスのステージに立ち、ベルリン・フィルと共演し…そんな素晴らしい経験をしたが、一番自分にとってかけがえのない「場所」は空港を出てきた時に、息子が出迎えてくれる、その場所だ、という気持ちを歌っている。そんな風に、僕は僕が本当に自分で経験し、感じ、心を動かされた本物の感情から曲を書いているに過ぎないんだ。曲自体が、自然と曲を書いてしまうこともあるよ。たまたまそれが(ジャズのビートを口ずさみ)こういうジャズの語彙なら、それは「イフ・ラヴ・イズ・オーヴァーレイテッド」や「メリーゴーランド」みたいな曲になる。その2つは完璧なジャズだ。でもそうでなかったとしても、音楽という家族であることには違いない。僕は音楽を考え、ジャズを考える。僕はゴスペルを歌うジャズ・シンガーであり、ソウルを歌うジャズ・シンガーだ…そういうアプローチをしている。もちろん、リミックスされれば(口でボイスパーカッションをして)こういう風にもなる。なってるといいんだけど(笑)いや、実際にもうリミックスされてるね! 僕にとっては幸せな家を作りたいのさ。ジャズもゴスペルもブルースもソウルも、こういった音楽はみな同じ家で育った家族みたいなもんだからね。

「ミスター・ホランド」Lyric Video



Q: あなたは主にスタンダード曲を歌う、普通のジャズ・ヴォーカリストとは違い、あなたが好きだとおっしゃるビル・ウィザーズやダニー・ハサウェイ、マーヴィン・ゲイがそうであるように、シンガーソングライターです。自分で楽曲を作り、録音し、歌う…その部分はあなたにとって大きな部分を占めているのでしょうか?

G: とても大きいよ。個人の表現として、色々な音楽が好きな中でも、曲を書く時に手本にしているのは、ブルースの簡潔さだ。シンプルながらも美しい思いを手のひらに乗せるように、曲にしてしまうところがブルースの素晴らしさだと思う。そういう曲を書きたいと思って書いている。他にも、ジャズ、ゴスペル、ブルースなど僕を作ってくれた音楽すべてが今の僕を作ってくれた。元々はゴスペルシンガーだったんだ。音楽のキャリアを始めた時は主にブルースを歌っていた。ジャズを好きになったのは後からだったんだ。最初に歌った音楽はゴスペル、でも6歳とか7歳とかでルイ・アームストロングを聞いた途端、ナット・キング・コールを聞いた途端、ジャズが押し寄せてきた。なんだ、これは!? って。でも面白いのは、子供の僕の頭の中では一度も別のものとして分けてなかった、ということさ。一度も音楽院などで音楽を勉強しなかったことも影響してるのかもしれない。だから、今だに音楽に垣根を設けないのかもしれない(笑)。どんな音楽にも美しさがある、と思えるんだ。作曲をする時は、そのそれぞれの音楽に合う、僕の表現を見つけようとするわけだけど、それらがブラック・アメリカン・カルチャーの「声」である点では、どれも一緒だ。ソウル、ゴスペル、ブルース、ジャズは、アフリカン・アメリカンにとっての声だった。社会においても、恋を語る上でも…互いに、そして外の世界とコミュニケートする上でも。僕がやってることも同じなんだ。ヒットを作る、のが目的ではなく、今の自分を作ってくれた音楽とコミュニケートしているんだと思う。

「リヴァイヴァル」MV



Q: おっしゃるように、今のアメリカが抱えるBLMの問題が、奇しくも反映されているアルバムですが、それはそうなるとわかっていて書いたわけではない、結局はルイ・アームストロングの時代からもそれは続いてきた問題だ、ということもでもあるんでしょうか?

G:そうだね。興味深いのはジョージ・フロイドの死がこれほどの広がりを見せたことだ。恐らく、誰もが家にいて、自分たちが「息をできることを守ろうとしていた(=生きること)」その目の前で不必要に「息をできなくされる」人間の姿を見させられたわけだ。それは世界中の人にとって、見るに堪えない映像だった。もちろん彼が初めてではない。その前にも、前にも、もっと前にも彼と同じ人間がいた。さらには僕らにも生きてきた中で、それぞれのストーリーがある。そんな中で、今は流れを変える分岐点なんだと思う。というか、変化を起こそうとしているんだと思う。アフリカン・アメリカン、そして世界中のブラック・ピープルがBlack Lives Matterを口にする時、僕らが「他の者の命に意義がない」と言っているわけじゃない。ただ「もし僕らの命が、他よりも意義がない」とされるのなら、せめて他の命と同じレベルまで上げようじゃないかと言っているんだ。ブラック・ピープルの命を向上させ、助けたいと言っているのは、他と平等なレベルにということだけであって、誰かを貶めることでもなければ、僕らが支配するためのムーヴメントではない。あくまでも「平等を求めたい」ということ。それが僕らが本当に言いたいことなんだ。僕の音楽の語彙、これまで書いてきたことも全て、そう言った互いへのリスペクトを望む気持ちを歌ってきた。それがこれまで僕が聞いて育ってきたジャズ、ブルース、ゴスペル、ソウル・ミュージックと言った音楽のトラディションなんだ。社会の中で、政治の中で、そして人間として、僕らのおかれた立場を声高らかな主張することがね。

「コンコード」ミュージック・ビデオ



Q:7月30日のNASA火星探検Perseveranceの打ち上げであなたが「America The Beautiful」を斉唱するという驚くべきニュースが入ってきましたが、どういう経緯で決まったのですか?

G: NASAの誰かが「コンコード」のビデオを目にしたらしいんだ。あの中で僕は宇宙服を着て歩き回っているだろ?あとはビデオの最初で息子がNASAのTシャツを着ている。それが彼らの興味を惹いたらしい。そのあとで僕の音楽を聴いてくれて、声がかかったというわけさ。嬉しいね。スペース・プログラムとか大好きなんだ。「America The Beautiful」は、レイ・チャールズのヴァージョンを考えると、本当は僕なんかが手を出しちゃいけないと思えるが、これまでにも何度か歌ってきた。僕は国に対する愛国心はあるタイプだ。自分と、家族と、そして兵役についたこともある叔父たちや、奴隷として連れてこられた祖先の分まで「感じながら」歌おうと思った。僕ら全員がこの国を作り上げてきたのだとね。非常に名誉なことだよ。


【リリース情報】

グレゴリー・ポーター ニュー・アルバム『オール・ライズ』
2020年8月28日(金)世界同時発売
https://jazz.lnk.to/GP_ARPR

収録曲:
01. コンコード
02. ダッド・ゴーン・シング
03. リヴァァイヴァル
04. イフ・ラヴ・イズ・オーヴァーレイテッド
05. フェイス・イン・ラヴ
06. マーチャンツ・オブ・パラダイス
07. コング・リスト・オブ・トラブルズ
08. ミスター・ホランド
09. モダン・デイ・アプレンティス
10. エヴリシング・ユー・タッチ・イズ・ゴールド
11. フェニックス
12. メリー・ゴー・ラウンド
13. リアル・トゥルース
14. ユー・キャン・ジョイン・マイ・バンド
15. サンキュー

グレゴリー・ポーター ニュー・シングル『アメリカ・ザ・ビューティフル』

好評配信中!
https://gregoryporter.lnk.to/ATB
収録曲:
01.    アメリカ・ザ・ビューティフル