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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第27回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十七章】―Mercy, Mercy, Mercy―

ビッグバンドでの演奏がうまくいき、僕は足取り軽くパーカッション科のオフィスに辿り着いた。ここでまず、ドラム単体での実技のオーディションが行われるのだ。

時間が来ると、名前を呼ばれそのオフィスに入る。そこには二人の先生が待っていた。一人はパーカッション科の主任、そしてもう一人がドラム・セットも受け持つ、合格すれば僕の担当となるJim Yakasだった。部屋にはドラム・セットが二台向かい合って用意されており、奥にあるセットを使うよう指示された。セッティングをしながら軽い自己紹介を済ませ、いよいよ演奏に入る。まず、一人で様々なスタイルを演奏するように言われた。スウィング、シャッフル、ボサノヴァ、サンバ、アフロ・キューバン、ファンクなどなど、グルーヴ感やフィール、そして知識と経験を試された。Brookhavenで一通り習得してきたので、全てうまく演奏できたと思う。その後、Jimが向かいのセットに座り、二人で四小節ごとにソロを交代して演奏する「トレーディング4s」と呼ばれるものをしばらく演奏した。ドラム・ソロのボキャブラリーはまだまだ乏しかったものの、タイム感はしっかり持っていたので、それも問題無く終わった。最後に「Essential Styles」という、当時の学生ドラマーは誰もが皆使っていたplay-alongの教材を使いアンサンブル的な技術をチェックされ、無事にドラム・セットのオーディションは終了した。手応えは十分にあったし、これなら合格できるだろう、と密かに思っていた。


教材としてよく使っていたEssential Styles

しかし、ホッとしたのも束の間。次はいよいよマリンバとスネアの実技だ。別部屋に移り、マリンバとスネアを用意する。確か、事前に指定された教材の中から、マリンバとスネアの練習曲を一つずつ選択し、当日演奏する流れだったと思う。マリンバの音域はバイオリンと似ているため、バイオリンの練習曲も教材としてよく利用され、僕はその教材の中にあるバイオリンの練習曲を選んだ。メロディの高低差が激しい曲だったが、身体がその動きに慣れればそこまで難しいものでもなかった。問題はスネアだ。スネア一つで表現するため、難しいリズムやルディメンツ、そしてダイナミックスがたくさん出てくる。現在でもそうだが、僕はドラム・ロールが非常に苦手で、できるだけロールが出てこない曲を選択しオーディションに臨んだ。静かに二人の教授が見守る中、マリンバを演奏し最後にスネアを叩いた。緊張感はあったものの、終始リラックスし両曲ともスムーズに終えられ、予想していた以上に自分の力を発揮することができた。

そうやってUTAのオーディションが終わり、外で待っていたYoungと再度落ち合った。「どうだった?」、「いい感じでうまくいった」みたいなやり取りをし、満足しながら会場を後にした。Youngの車に乗り込み、いつも二人で通っていた韓国スーパーに向かった。フードコートでプルコギを食べ、オーディションの疲れを感じながら僕たちは帰路につく…はずだったのだが、なんといつの間にかYoungの車のタイヤがパンクしており、急遽修理ショップへと持って行った。そして、何故なのかそのショップが非常に混んでおり、長時間待たされやっとのことで帰宅できた。

精神的にも体力的にもとても疲れた一日だったが、無事に合格の知らせを受け取り、晴れてUTAへの編入が決定し、全てが報われた。

オーディションの翌日、土曜日。Keith率いるBrookhavenのビッグバンドの最後のコンサートが行われた。Brookhavenより少し北にあるCarrolltonという街のシニアセンターでの演奏。今までKeithに習ってきたことを思い返し、少し寂しくなりながら一生懸命演奏をした。ふと見ると、一緒にパーカッションで切磋琢磨したAndieが客席に座っていて、とても感慨深く、とても嬉しかった。Buddy Rich Big Bandヴァージョンの「Mercy, Mercy, Mercy」を演奏し、高揚する気持ちと共に僕のBrookhavenでの最後のコンサートが終わった。

2005年12月23日、僕はDallasからArlingtonへと引っ越し、次のチャプターが始まったのだ。


引越しの準備で散らかる部屋


Arlingtonでの新居

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は3月16日の予定です)


第二十六章はこちら
https://bluenote-club.com/diary/322416?wid=68497

第二十一章~第二十五章のまとめ読みはこちら
https://bluenote-club.com/diary/323331

第一章~第二十章のまとめ読みはこちら
https://bluenote-club.com/diary/267819


■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
「land & quiet」のデビュー・アルバムがリリース。
『land & quiet』

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■Discography
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
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