COLUMN/INTERVIEW

“チャ―ルス・ロイド・レトロスペクティヴ“といった趣のニュー・アルバム『8: Kindred Spirits』(映像付きライヴ作品)

文:原田和典


©Photos by D. Darr

最もアクティヴに活動する80代といっても過言ではないであろうチャールス・ロイドがニュー・アルバムをリリースした。ジャズフェス「東京JAZZ 2019」でも快演した新ユニット“キンドレッド・スピリッツ”を軸とする作品はこれが初めてだ。タイトルは『8: Kindred Spirits』、形態は“CD+DVD”、“2LP+DVD”、“2CD+3LP+DVD”とあり、収録内容も微妙に異なるが、どのフォーマットにもDVDがついているので、すごく背の高い仙人といった風貌のロイドと精悍な表情でプレイし続ける息子世代のミュージシャンとのコントラストを視覚的にもたっぷり楽しめる。2018年3月15日、つまりロイドの誕生日に現在の彼の拠点であるカリフォルニア州のサンタ・バーバラで行なわれたコンサートのライヴ・レコーディング。レパートリーには、ちょっとしたチャールス・ロイド・レトロスペクティヴといった趣もある。せっかくのセレブレーションだし、みんなの聴きたい楽曲も思いっきり演奏しちゃうよ、だけど今の自分のやり方で、自信のバンドでやるから、そのへんはよろしくといったところか。


©Photos by D. Darr

ロイドがサックス奏者として本格的なキャリアを踏み出したのは1950年代半ば、故郷メンフィスでのことだった。B.B.キング、ブッカー・リトル、ジョージ・コールマンらと共演し、56年ロサンゼルスに移住、60年にエリック・ドルフィーの後任としてドラム奏者チコ・ハミルトンのバンドに抜擢された。彼の加入によってチコのバンドはセットリストを一新、ロイドはサックス奏者・作編曲者として大きく羽を伸ばす機会を得た。この最新作にも入っている「フォレスト・フラワー」はチコ時代の楽曲だ(63年のインパルス盤『マン・フロム・トゥー・ワールズ』で初演)。64年にはキャノンボール・アダレイのバンドに加わり、65年には満を持して自身のバンドを結成。病気療養中のマイルス・デイヴィスの許からロン・カーターとトニー・ウィリアムスを引き抜き、チコのバンドで同僚だったガボール・サボがギターを弾いた。「アイランド・ブルース」は、この時期からのレパートリーだ(チコ時代に書いた「ブルース・メドレー」の最終楽章「アイランド・ブルー」<スは付かない>を発展させたもの)。数か月間メンバーは安定しなかったが、66年初頭にはキース・ジャレットやジャック・ディジョネットを含む、いわゆる“黄金のカルテット”が始まる(マイルスは68年にディジョネット、70年にキースを引き抜く)。「フィルモア・イースト」などロック系のヴェニューにも積極的に登場し(“ロック・ファンが支持した唯一のアコースティック・ジャズ・グループであった”という声も)、67年のソビエト公演も記録的な成功を収めた。彼らの演奏は一部でサイケデリック・ジャズとも呼ばれたが、ロイドもキースもディジョネットもドラッグはおろかタバコとも無縁であることは明記しておきたい。当時の代表曲「ドリーム・ウィーヴァ―」(「メディテイション」と「ダーヴィッシュ・ダンス」の二部構成)、「ソンブレロ・サム」も、この最新作で再演されている。
“黄金のカルテット”終了後のロイドはマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーの超越思想への共感を深め、マイク・ラヴ(ビーチ・ボーイズ)、ロジャー・マッギン(元ザ・バーズ)らとも交流したが、いわゆるジャズ・アーティストとしての活動に再び火が付いたのは81年、フランス出身のピアノ奏者ミシェル・ペトルチアーニと出会ってからといっていい。85年にはブルーノート・レーベルと初めて契約し、89年からは約15年間にわたってECMレーベルへ録音を続けた。ボボ・ステンソン、ブラッド・メルドー、ジェリ・アレン、ジェイソン・モランと参加ピアニストの名を挙げていくだけでも、ロイドの変わらぬ慧眼がうかがえる。「レクイエム」は、91年のアルバム『ノーツ・フロム・ビッグ・サー』の冒頭に収められていたナンバーだ。


Charles Lloyd - Requiem (Live From the Lobero Theatre)



そして2015年にブルーノートと再契約。筋金入りのロイド・ファンである現社長ドン・ウォズが見守る中、以前にもまして果敢に創作に取り組んでいる。ウォズはまた、このライヴ・アルバムにスペシャル・ゲストとして参加、2曲でベースを弾く。
さらに予想を超えた嬉しさなのはロイドの6歳下で同郷のオルガン奏者、ブッカー・T・ジョーンズが特別参加していることだ。オーティス・レディング、リタ・クーリッジからクエストラヴ、吉田拓郎まで本当に多くのミュージシャンと絡んできたブッカー・Tだが、以前に話をうかがったときは“ジャズは好きだけど、断じて自分はジャズ・ミュージシャンではない”という答えが返ってきたことを覚えている。が、むろん心配は無用。この“音の語らい”に触れて、心がおごそかにならないひとなどいないのではないかと真剣に考えてしまう。ブッカー・Tの名を不動のものとした大定番「グリーン・オニオンズ」が、まさかここでも演奏されるとは。この曲でのジュリアン・ラージときたら、まるで今後100年間弾くために貯蔵しておいたブルース・フレーズを惜しげもなく一気にぶちまけたのではと思えるほど痛快だ。


■作品情報
Charles Lloyd / 8: Kindred Spirits


CD+DVD
https://store.universal-music.co.jp/product/080154/

2LP+DVDはこちら
https://store.universal-music.co.jp/product/080156/