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ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第25回)


 


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。

15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十五章】―才能―

University of Texas at Arlington (UTA)に編入しようと思ったのは、Brookhaven Collegeでの現状が理由でもあったが、それだけではなかった。仲間からの熱い後押しもあって決断できたのだ。

学校での演奏が面白くなくなり、内心ずっとモヤモヤし、どこか集中力に欠ける日が多くなったりもしていた。それに一早く気付いたのが、ビッグバンドやドラム・レッスンなどで毎週何度も僕のことを見てくれていたKeithだった。

僕が昔書いていたブログのアーカイブを遡ってみると、2015年のある日のできごとについてこう書いていた(関西弁での表現はさておき…)。

“水曜日にKeithとドラムのレッスンがあった。前々からお互いに分かってたしお互いに言うてたことやけども、「このセメスターの俺はやる気に欠けている」ということ。気分転換をしても何をしてもなぜかやる気に満ち足りない。そら人やから悩み事やつらいことなどもある、でもそれを理由にしたくないし、したとこでどう変わることもない。同じく自分のいる環境、学校の環境、そういうのも理由にならない。その環境の中で出来る限りのことをしているのか、というと簡単に答えがでる。していない。しかし、したくないのではなく、その理由が分からない。理由はどうでもいい。水曜日、レッスンでとりあえずやることをやった後、Keithと話し合った。「やっぱりやる気がないみたいや」と言ってみた。正直そのことについてKeithに対しても悪く思うし、そんな自分がとても嫌いである。Keithは色々話をしてくれた。そして1つ質問を俺にした。「ドラムをやる前でもいいが、バイオリン、ピアノ、ギターをやってて音楽が簡単にできてるって感じたことはないか?」と。「うん、まぁそれなりに練習もしてなかったし、そうなるかな」と答えた。Keithは「それは何か分かるか?」と聞いてきた。答えが見つからず、俺は黙りその後「I don't know」と言ってみた。

「それは才能だ」

その一言に何も言えずにKeithの話をずっと聞いていた。

「神様か、神様を信じていないならこの世界の何かがお前に与えたもの、それが才能であり、それをお前は持っているんや」と。

「その才能のせいで音楽で一般的に難しいこともお前はすぐにできてしまい、一度できるとそれ以上を求めずまた元の位置に戻ってしまう。壁に突き当たると壁を壊すことをできるが壁の向こう側には行こうとしない、そしてまた来た道を戻りまた同じ壁が立てられていても壊すだけで、それ以降はない。お前にはたくさんの潜在能力があるし可能性もある。ただ今の状況を続けていくと進歩しない。その壁の向こう側を知らないから、その壁のなかでお前は自分に対して厳しすぎる。今の生活でお前は学校とピアノラボのバイトとアパートでの生活の3つに集中しすぎている。彼女がいいものかどうかは分からないが、彼女やらなんやらの音楽または学校に関係のないものも時には必要なのだ。それに日本の家から遠く離れて一人で住んでいるから生徒と先生の関係なしにShinyaのことが心配になる。たまに聞くと飯をちゃんと食っていないと聞くし健康面でも気になる。俺はShinyaとは違い才能がなく努力でここまで来た。毎日の積み重ねもとても重要だ。お前からは音楽に対する情熱や何よりも音楽をしたいという心を感じられる。俺にもそういう時期があったしよく分かる。今いてるところは、そしてこれから行こうとしているところはお前が本当にいなければいけない場所ではない。ニューヨークやロスなどにある音楽学校に行く必要がある。今すぐにとは言わない。次の場所を経て、いずれ、そこに行かなければならない。今のこの環境ではお前は全くチャレンジされていない、お前がいるにはレベルが低い。もし音楽的に刺激されていないのであれば、俺が刺激してやる。今度の土曜日のレッスンはそれも含めている。土曜日までに2つの目標を考えてみろ。短い時間(数ヶ月以内)で達成できる目標と長い(数年)目標の2つを。その答え自体でこれからのレッスンをしていきたいと思う。困ってることがあるんやったら何でも言うてこい」”

改めて読み返し、本当に良き理解者が自分の側にいてくれたんだなと思った。この後、Keithは僕にたくさんのことを教えてくれ、音楽人生の糧となる経験をいっぱい共有してくれた。厳しくも優しく愛情を注いでくれ、僕が成長することを一番に喜んだ。

それから僕は、正直飽和気味になっていた「音楽」というものをまた楽しめるようになってきた。新しい音楽をたくさん聴き、今まで知らなかったものをどんどん受け入れる。そうやって刺激的な毎日が少しずつ戻ってきたのだ。

また、KeithだけでなくDunn Brothersでよく一緒に演奏していたYoungからもこう言われた。

「なあ、俺と一緒にUTA行かないか? 2年間だけでいいから」

Youngは僕より3つ上で韓国出身のベーシストだ。同じアジア人ということもあり、お互いの気持ちがよく理解できるし、何より演奏がとてもよく合う二人だったので自然と仲良くなった。仲が良いというより、時が経つに連れほぼ兄弟みたいな関係になっていた。漫才でいうところの相方みたいなものなのだろうか、そういう存在だ。Youngも同じく次のレベルに行きたくUTAに編入しようと考えていたのだ。誘われた時は、まだ自分自身の行き先が分かっていなかったからどうしようかしばらく考えたが、Youngと一緒に演奏できるなら最高だなと思い、その気持ちも転校を決断する動機の一つとなった。

そして彼もKeithと同じく僕を全面的にサポートしてくれ、UTAのオーディションの当日、僕を車で会場まで連れて行ってくれたのだ。

そう、遂に運命のオーディションの日が来たのだ。

 
当時、悩んだ時によく訪れた橋の下


※記事中の写真は本人提供

(次回更新は2月17日の予定です)


第二十四章はこちら
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■最新情報
伊藤ゴロー、佐藤浩一との新ユニット
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