COLUMN/INTERVIEW

ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第20回)



2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。


【第二十章】―Straight, No Chaser―

学校の先生や他の学生との距離も縮まり、音楽漬けの日々を楽しく過ごしていた。音楽理論やイヤー・トレーニングを勉強しながら、どんどんと深まる知識にも嬉しさを覚えた。約60ページ分の課題を一日で終わらせたり、そんなことが全く苦じゃなかった。そしてプライベート・レッスンで学んだものを全て出し、アンサンブルで演奏できる機会を僕は楽しんだ。


当時のブルックヘブン・カレッジ

毎週2度行われる、その名もDay Time Lab Band(以下Lab Band)という授業。管楽器やリズム・セクション、10名を超える様々な楽器の生徒がこの授業を受けており、基本的にジャズの曲を演奏するラージ・アンサンブル的な立ち位置だった。ビッグ・バンドほどの細かい楽譜ではなく、ジャズ・スタンダードのアレンジを演奏していた。もちろん同じ楽器の人もいるし、ドラムだけでも僕を含めて3人もいたので、曲ごとに誰が演奏するかを決めていた。フランク・マントゥースがアレンジした楽譜が多く、新しい曲が出てくる度にCD屋へ行きその曲が入っているものを片っ端から探した。そうやって僕はこの授業のおかげでたくさんのジャズ・スタンダードを覚えることができた。

また、ドラム・ソロというものを初めてやったのもこのLab Bandの授業中だった。32小節からなる、今思えばとても簡単な曲だったと思うが、1コーラス丸ごとソロという当時の僕には難題だった。ただ緊張しながらもとても興奮したことを覚えている。ドラマー3人ともソロを取らされたが、僕は自分が一番うまくできたと思ったし、周りの生徒もそう言ってくれ誇らしかった。その他にも、マリンバやヴィブラフォンを演奏したり、できることは何でもやった。

Lab Band内で知り合った新しい友達と空き時間にセッションをしてみたり、習ったばっかりの理論の解釈で曲を書いてみたり、自分自身がしっかり学んだものを学校内で終わらせないように努めた。というと聞こえはいいが、ただ単に音楽がとても楽しかっただけなのだ。人と一緒に音を出すこと、自分で書いたものが形になること、その幸せを噛みしめながら少しでも良い音楽家になりたいと願った。


当時の音楽科の掲示板

8月はすぐ終わり、9月、10月もあっという間に過ぎ去っていった。その間にルームメイトは諸事情でいなくなり、再び完全な一人暮らしの生活に戻っていた。その分家賃を余分に払わなければなかったが、一人の時間が増えたことで安心して音楽に打ち込むことができた。とは言え、平日だろうが週末だろうが関係なく毎日学校に行き、ピアノの練習をしたりドラムの基礎を覚えたりしていたので、帰宅するのはいつも夜遅くになっていた。学校が閉鎖するギリギリまでいたこともしばしば、警備員に門を開けてもらったりも。だから家では持ち帰りのご飯を食べて寝るだけの生活が多かった。でもそれも、僕と一緒に夜遅くまで付き合い勉強してくれる仲間や先生がいたからこそ。貴重な時間をたくさん過ごせたと思う。

11月に入り秋の匂いがしてきた。いくらテキサスとはいえ秋も冬も寒くなってくるものなのだ。そんなどこか寂しげなテキサスの秋の匂いを感じながらチェット・ベイカーを聴くのが好きだった。11月の終わりにはThanksgiving(感謝祭)と言われる大行事があり、4日ほどの連休が待っている。そしてその連休直前に、僕らのLab Bandが学校のコンサート・ホールで演奏することが決まっていた。初のジャズ・コンサートだ。がしかし、ドラマーが3人いるので、誰がどの曲を演奏するか振り分けなくてはいけない。それはLab Bandの担当の先生Royが決めるのだが、Royはクラシック出身であまりジャズに詳しくなく判断基準も曖昧だった。僕は3曲もらったのだが、プログラムの中で一番テンポの早い曲「Straight, No Chaser」を他のドラマーに任された。それに対してどうしても納得がいかずにめちゃめちゃ腹を立ててしまった。僕はこのバンドで一番のドラマーで誰よりもうまくスウィングできる、どうみてもフェアじゃない、そう自負していた。授業が終わり、「どういうつもりだ、おかしいだろう! 絶対俺の方がうまく叩けるし、あのドラマーには荷が重すぎる。その曲を俺にくれ!」と直接オフィスまで直訴しにいった。Royも僕がそこまでの気持ちでその曲を演奏していたとは知らず、結局根気負けし、僕にその曲を与えてくれた。最終的に僕の演奏する曲は、「In Walked Bud」「Straight, No Chaser」「Night And Day」「So Nice」の4曲に決まり、マリンバで「Pent Up House」、ヴィブラフォンで「Stolen Moments」も演奏することになった。

そして2003年11月22日、Lab Bandが演奏する日、僕の初めてのジャズ・コンサートの日がやってきたのだ。


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※記事中の写真は本人提供

(次回更新は12月2日の予定です)



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