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ダイアナ・クラール来日公演:東京公演初日ライヴ・レポート

約3年ぶりとなった来日公演、初日の模様をお届けします。
(文:佐藤英輔)


 
🄫土居政則


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 ダイアナ・クラールはヴァーヴを率いた故トミー・リピューマや名ベーシストであり秀でた編曲家/バンド・リーダーであるジョン・クレイトンら、米国20 世紀の最たる音楽様式であるジャズを大局的に見ることができる才人たちのサポートを受けてきた。<クラール=今のジャズ・ヴォーカル界きっての女性>という揺るぎない評価は、彼らとの出会いが導いたのは疑いがない。また、カナダ人であるクラールはどこか異邦人的なスタンスでジャズをしなやかに捉えるところがあって、それは魅力的な誘いを自らの表現にもたらし、門外漢にとってのとっつきやすさも得てきたのは間違いない。 
 そんなクラールゆえ、コンサヴァティヴな作風で通してきているような印象も与えるが、その時々に魅力的な広がり抱えた新機軸作を発表してきている。たとえば、2010年の『グラッド・ラブ・ドール』は米国ロック界の賢人プロデューサーであるT・ボーン・バーネット制作のもと渋くもどこかユーモラスにブルースとジャズが分化する前の古曲にあたり、続く『ウォールフラワー』はボブ・ディラン他のロック曲を取り上げて清新なジャズ・ヴォーカル盤としてみたり。そう、クラールは安住することなく、動いてきているのだ。

『ウォールフラワー』(2015年作品)




 そして、今回のダイアナ・クラールの来日公演同行者の名前を見て、驚いた。もとい、やはり彼女はしなやかに呼吸している人だと思わされた。
 ダブル・ベースがロバート・ハーストで、ドラムがカリーム・リギンス。また、ギタリストはクラールと20年近く関係を持っているアンソニー・ウィルソンという陣容。それぞれクラールとの付き合いは持っていたものの、この3人が一緒になるのは今回初めてのこととなる。
 ブランフォードとウィントンのマルサリス兄弟から強い信頼を受けたハーストとジャズ・ベースの巨人だったレイ・ブラウンの晩年に重用されたリギンスは、実はデトロイト育ちで昵懇の間柄。リギンスはヒップホップに精通した御仁としてしても知られ、彼はハーストを擁したビート・アルバムをLAの趣味性の高いヒップホップ・レーベルのストーン・スロウから出したりもしている。また、ロバート・グラスパーとラッパーのコモンとともにオーガスト・グリーンというユニット作を出しもしているリギンスはザップ・ママからキャンディス・スプリングスまで、様々なアルバムをプロデュース。彼が舵取りをしたスプリングスの2018年新作『インディゴ』にはハーストとウィルソンもレコーディング参加していた。
 なお、10枚強のリーダー作を持つウィルソンは生粋のジャズ・ギタリストであるが、ポール・マッカトニーのジャズ盤『キッス・オン・ザ・ボトム』やノラ・ジョーンズの『ノラ・ジョーンズの自由時間』に参加するなど、実は顧客の幅はかなり広いことも、書き加えておく。
 さて、そんなジャズの本懐も知る一方で外の世界も知っている演奏者を擁する来日公演はまさにバンド、“ダイアナ・クラール・カルテット”と言いたくなるものだったと言える。ステージ前に置かれたスタンウェイのフルコンの前に座るクラールを見守るように、ハーストとリギンスとウィルソンが位置。深みのある照明もあり、その図は威風堂々、格調アリ。その様は、2000人を超える収容人員を持つクラシック主用途ホールであるオーチャードホールの格式に負けないものだった。
 オープナーはナット・キング・コールやレイ・チャールズ他、あまたの名唱で知られるスタンダードの「ディード・アイ・ドゥ」。その際、クラールは自分でピアノのソロを取るだけでなく、メンバー全員にソロの機会を与える。つまり、彼女は自らを中央に置きつつ、カルテットとしての総合表現を受け手に届けんとする。そんな彼女は渋く重厚な歌い方をしていた新作『ターン・アップ・ザ・クワイエット』と比べると、その歌はくつろいでいて、軽やか。彼女が本当に現在の構成員を信頼し、身を任せているのがよく分かる。クラールは歌っている際にはあまりピアノを弾いていなかったのも、サポート陣を信頼していた証となるだろうか。とともに、彼女は<音の引き算>にも留意、“風が吹いている”と形容もしたくなるその総体は、そうした大人の意図が導いていたはずだ。

『ターン・アップ・ザ・クワイエット』(2017年作品)




 リギンスやハーストは4ビート・ジャズの本道をきっちり踏みつつも、やはりどこかに遊び心や広がりを抱えた演奏を志向。それにつられ、ウィルソンもときに一歩はみ出した指さばきを披露する。そして、そこにクラールの豊穣極まりないヴォーカルやピアノが乗り、その総体は懐古主義に陥らない、今のジャズ・ヴォーカル表現へと結晶する。とくにライヴにおいては、各人の演奏の重ね具合=インタープレイの様が手に取るように分かるわけで、本当に面白いったらありゃしない。

 

 演目は、「オール・オア・ナッシング」、冒頭でクラールがストライド調のレトロ奏法を悠々と披露した「L-O-V-E」、「ユー・コール・イット・マッドネス」、「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」、「クライ・ミー・ア・リヴァー」、レイ・ブラウンのアレンジを借りたと紹介された「アイ・ワズ・ドゥーイング・オーライト」といったように、既発のアルバムで取り上げているストーリー性豊かなスタンダード・ナンバーが中心。また、ビートの効いた「デヴィル・メイ・ケア」や本編最後に披露された「チーク・トゥ・チーク」は、絶妙にブルージィな味をたたえる。そういう側面も持っているからこそ、彼女のパフォーマンスは心地よさだけに終わらぬ深い訴求力を持つという事実を、それらは示していた。



「L-O-V-E」 




「クライ・ミー・ア・リヴァー」



 
 また、後半にさしかかるときに、彼女はジョニ・ミッチェルにいろいろと言及しつつ、ミッチェルの1971年曲「ア・ケイス・オブ・ユー」を弾き語りで披露。実力者満載の2019年ライヴ盤『JONI 75~ジョニ・ミッチェル・バースデイ・セレブレーション』にも彼女は参加していたが、そこで披露されたものとのは別の曲を瑞々しく彼女は歌った。そして、そのピアノ・ソロのパートで彼女はやはりカナダ人シンガー・ソングライターである故レナード・コーエンの「ハレルヤ」の一節も闊達にインサートしたのには驚かされた。「ア・ケイス・オブ・ユー」には<I drew a map of Canada /Oh Canada>という歌詞も出てくるわけだが、そこでクラールは偉大なカナダ人先達たちへの思慕を借りて、自らのカナダ人属性への自負を表出していた。
 アンコールではエキゾな30年代曲「ブールヴァード・オブ・ブロークン・ドリームス」、そしてバート・バカラックの「ザ・ルック・オブ・ラヴ」と、印象深いメロディアス曲を演奏する。聞き手はアンコールで、新しい彼女の表情に触れられたような気持ちになったのではないだろうか。特に後者は、リズム・セクションが妙味を出し、まさに2020年代のメロディ性に富むアコースティックなジャズ・ヴォーカル表現という像を出していたはずだ。

「ザ・ルック・オブ・ラヴ」




 ライヴは生き物。かような3人のサポートのもと、円熟したクラールの持ち味がスポンテニアスに舞う。“変わらなくていい”ジャズ・ヴォーカル本道の妙味を存分に抱えつつ、いやその妙味を失うことなく、ダイアナ・クラールは見事に今の風をまとうパフォーマンスを思うまま表出。今回の来日公演の魅力はまさにそれに尽きるが、この面々によるアルバムが出たりはしないだろうか。


■ダイアナ・クラール来日公演情報
・2019年11月11日(月)
広島:広島上野学園ホール
18:00 open / 19:00 start    広島上野学園ホール
【料金】
S ¥15,000 A ¥14,000(座席指定/税込)
【お問い合せ先】
tss事業部 082-253-1010 <平日10:00〜18:00>
YUMEBANCHI 夢番地(広島) 082-249-3571 <平日11:00〜19:00>

・2019年11月13日(水)
大阪:フェスティバルホール
18:00 open / 19:00 start    
【料金】
S ¥15,000(1F席・2F席・3F席[座席指定]/税込)
A ¥14,000(3F席後方数列[座席指定]/税込)
【お問い合せ先】
大阪ウドー音楽事務所 06-6341-4506


■ダイアナ・クラール各種リンク
Diana Krall official site
http://www.dianakrall.com/
ユニバーサル ミュージック
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