COLUMN/INTERVIEW

コラム:誰にも似ていない才能。ブルーノートからデビューしたヴァイブ奏者ジョエル・ロス。

文:原田和典
 

 
 

うわっ、誰にも似ていない!

これがジョエル・ロスに関する第一印象である。2017年、ユリシス・オーエンス3世というドラマーのアルバム『フォーリング・フォワード』を聴いた。大半の曲がヴィブラフォン(以下ヴァイブ)、ベース、ドラムスという珍しいトリオ編成で綴られ、ほとんどのレパートリーがスタンダードか先輩ジャズメンの書いたナンバーだった。これをジョエルは実に瑞々しく奏でた。ジャズの歴史もなんだかんだいって百十数年はあり、楽器メーカーのディーガン社がヴァイブを開発してから再来年で満百年になる。果たしてジャズの花形楽器だった時期があったかどうかは疑わしいけれど、それでも相当な個性派が魅力的な響きを放ってきた。疑いなくジョエルはシーンに新風を吹き込んでいる。といってもパトリシア・ブレナンのように弓弾きを駆使するわけでもないし、エフェクター等で変化を加えているわけでもないようだ。重く冷たい鉄の板を、マレットできっちり叩く。そこにしなやかなアドリブ・センス、切れ味たっぷりのリズム感を加えながら。音色は非常にクリアで鋭く、おそらく楽器にはヴィブラート・スイッチそのものがないのだろうとも推測できる(ちなみに40年代から半世紀にわたってジャズ・ヴァイブの象徴的な位置にいたミルト・ジャクソンは、粗いヴィブラートをかけたスタイルをトレードマークとした)。

だがジョエルは決して根無し草ではない。最晩年のボビー・ハッチャーソンと密に交流し、10代半ばにしてステフォン・ハリスの指導も受けている。ミルトの権勢から見事にサヴァイヴした強力な奏者二人との日々は、ジョエルにとってどれほど大きな糧となったのか想像に余りある。しかしそのプレイにハッチ的なもの、ハリス的なものを君は感じるか? 筆者は感じない。そこにたまらない独創性、ホンモノ性をみる。これを持てるかどうかが次代の星となるか、技術だけは立派なエピゴーネンで終わるかの分岐点となる。

とあるインタビューで、ジョエルは自身の奏法の特色についてこう触れた。“僕が自分のプレイに求めているのは、大体の場合clarity(明瞭さ)だ。大抵のヴィブラフォン奏者のプレイはペダルを長く踏みすぎて、いくつもの音が重なっているように聴こえる。僕はペダルをタップしたり、半分だけ踏むアプローチを多く行っている。これは別に何も新しいことではないけれど、特に注意深く取り組んでいることのひとつだね”。

待望のファースト・アルバム『キングメーカー』は奇しくもミルト、ハッチ、ハリスが所属経験のあるブルーノート・レーベルからの登場だ。この作品の国内リリース、さらに今月に行われる来日公演でジョエルはいっそう我々日本のリスナーの心に深く入り込むことだろう。鬼才の“サウンドの神秘”を体感できる日が待ち遠しい。


Joel Ross – Yana (Music Video)

 



■リリース情報
ジョエル・ロス
『キングメーカー』

2019. 11. 6 ON SALE
SHM-CD: UCCQ-1108  \2,860 (tax in)
購入・試聴はこちら https://jazz.lnk.to/KingMakerNL

収録曲
1. タッチト・バイ・アン・エンジェル
2. プリンス・リンズ・ツイン
3. ザ・グランド・ストラグル・アゲインスト・フィアー
4. イル・リレーションズ
5. イズ・イット・ラヴ・ザット・インスパイアズ・ユー?
6. インタールード (ベース・ソロ)
7. キングメーカー
8. フリーダズ・ディスポジション
9. ウィズ・フーム・ドゥ・ユー・ラーン・トラスト?
10. グレー
11. ヤナ
12. イッツ・オールレディー・トゥ・レート
13. タッチト・バイ・アン・エンジェル (Live At Newport Jazz Festival) ※日本盤ボーナストラック

ジョエル・ロス(vib) イマニュエル・ウィルキンス(as) ジェレミー・コレン(p) オル・バレケット(b) ジェレミー・ダットン(ds) ゲスト:グレッチェン・パーラト(vo)


■来日公演
The EXP Series #31
ジョエル・ロス “Good Vibes”
2019年11月12日(火)、13日(水) ブルーノート東京
ジョエル・ロス(vib) イマニュエル・ウィルキンス(as) ジェレミー・コレン(p) オル・バレケット(b)  クッシュ・アバディ(ds)
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/joel-ross/

ゲスト出演
BLUE NOTE plays BLUE NOTE
2019年11月11日(月) ブルーノート東京
黒田卓也(tp) 西口明宏(ts) 桑原あい(p) 宮川純(p, org, key) 角田隆太 ものんくる 横山和明(ds)
Special Guest: ジョエル・ロス(vib)
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/blue-note/

Link
ユニバーサルミュージック ジョエル・ロス サイト https://www.universal-music.co.jp/joel-ross/
ジョエル・ロス公式サイト(英語) http://www.iplayvibes.com/