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コラム:またしても衝撃の発掘! ジョン・コルトレーン『ブルー・ワールド』は瞠目必至の音源だ

文:原田和典



亡くなって50数年が経つというのに、いつまでこの男は我々を驚かせ続けるつもりなのだろうか。ジャズ界のオールタイム・カリスマ、ジョン・コルトレーンの“新作”がまたしても登場した。昨年の夏にリリースされた『ザ・ロスト・アルバム』(1963年3月録音)に続く、瞠目必至の音源だ。

タイトルは『ブルー・ワールド~ザ・ロスト・サウンドトラック』。1964年6月24日、ニュージャージー州にあるルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオで収録されている。全8トラック入りでトータル・タイムは40分に満たないから『ザ・ロスト・アルバム』に比べるとあっさり目のボリュームだが、個人的にはこちらの作品のほうに予想外の驚きを感じた。大きなサプライズ・ポイントは、次の2点に尽きる。

★生前のコルトレーンが手がけた唯一の映画音楽(サウンドトラック)であること

★プレスティッジ~アトランティック時代の楽曲を、マッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズとの“黄金のカルテット”でリメイクしていること

コルトレーン・ファンのバイブルというべき大著『The John Coltrane Reference』(2008年発行)に記載されていなかったのも、当レコーディングの貴重性に拍車をかけている。映画のタイトルは『Le chat dans le sac (ル・シャ・ダン・ル・サック)』。ジル・グルーを監督に、フランス語圏にあたるカナダ・ケベック州で制作された。2013年には『袋の中の猫』という邦題がつけられ、フランス政府の公式機関「アンスティチュ・フランセ横浜」で上映されてもいる。大のジャズ・ファンで、ギャリソンと旧知でもあった監督は、63年に黄金のカルテットのモントリオール公演に接して感激。撮影が終わって編集工程に入った64年3月、コルトレーンに音楽を依頼した。彼が画面を見ながら演奏したかどうかは不明だが、結果として珠玉のような小品たちが録音テープに刻まれることになった。ちなみに同業者にしてライバルでもあったろうスタン・ゲッツがアメリカ映画『ミッキー・ワン』、ソニー・ロリンズがイギリス映画『アルフィー』のサウンドトラックにそれぞれ取り組んだのは65年、66年のこと。コルトレーンはそれに先んじていたのだ。

ブルーノート盤『ブルー・トレイン』のような偉大な例外はあるものの、コルトレーンのリーダー作は基本的に、プレスティッジ、アトランティック、インパルスの3レーベルに集中している。57年にプレスティッジと契約し、59年アトランティックに移籍、61年にインパルスの花形アーティストとなり、何度目かの再契約を結んで間もない67年7月に他界した。その間、スタジオ・レコーディングで同じ曲をリメイクすることはまったくといっていいほどなかった。だがこのサウンドトラックのために彼が用意したナンバーは、「アウト・オブ・ジス・ワールド」(62年のインパルス盤『コルトレーン』収録)をモチーフにした「ブルー・ワールド」以外、すべて旧作の再演。「トレーニング・イン」は57年プレスティッジに、「ナイーマ」「ライク・ソニー」は59年、「ヴィレッジ・ブルース」は60年アトランティックに初吹き込みを行っている。モード・イディオムを大々的に導入する前に制作した(主に)50年代の楽曲を、60年代モード・ジャズの権化というべき黄金のカルテットがいかに料理し、衣替えしているか、このカリスマの音楽に深入りしているファンであればあるほど関心は尽きないはずだ。そしてこのアルバムからコルトレーンに入門した新規リスナーは、メロディの親しみやすさ、抑制の利いたサックス・プレイに、一気に引き込まれるに違いない。

それにしても『クレッセント』や『至上の愛』といった重厚きわまりない作品を吹き込んだ64年に、こんなにポップなセッションも残していたとは。コルトレーンの謎は、さらにしばらく解けそうにない。


ジョン・コルトレーン『ブルー・ワールド~ザ・ロスト・サウンドトラック』ティザー映像

 
 

■リリース情報
ジョン・コルトレーン
『ブルー・ワールド~ザ・ロスト・サウンドトラック』

NOW ON SALE
SHM-CD: UCCI-1046  \2,400 (+tax)
購入・試聴はこちら https://jazz.lnk.to/jc_tlsNL

収録曲
1. ナイーマ (テイク1)
2. ヴィレッジ・ブルース (テイク2)
3. ブルー・ワールド
4. ヴィレッジ・ブルース (テイク1)
5. ヴィレッジ・ブルース (テイク3)
6. ライク・ソニー
7. トレーニング・イン
8. ナイーマ (テイク2)

ジョン・コルトレーン(ts) マッコイ・タイナー(p) ジミー・ギャリソン(b) エルヴィン・ジョーンズ(ds)
★1964年6月24日、ニュージャージー、ヴァン・ゲルダー・スタジオにて録音


■Link
ユニバーサルミュージック ジョン・コルトレーン サイト https://www.universal-music.co.jp/john-coltrane/
ジョン・コルトレーン公式サイト(英語) https://www.johncoltrane.com/