COLUMN/INTERVIEW

平成のECM

1969年、ドイツでマンフレート・アイヒャーによって設立されたレーベル、ECM Records(Edition Of Contemporary Music)。
ジャズからクラシック、現代音楽までを網羅したラインナップで、これまでに1,500タイトル以上リリースされており、その“沈黙の次に美しい音”と言われる透明感にみちたサウンドは、誕生から半世紀近くにわたって音楽ファンを魅了しつづけています。
そんなECMレーベルが誕生して今年は50周年!
今回は設立50年迎えたECMレーベルの平成時代に焦点を当て、music journalistとしてのほかにも様々な分野でご活躍されている原雅明さんにご執筆頂きました。


 平成元年を迎えた1989年、ECMからリリースされたのは、例えばこんな作品だった。キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットのスタンダーズ・トリオが即興中心のオリジナル曲を演奏した『Changeless』、ジョン・アバークロンビーがギター・シンセサイザーを使った『John Abercrombie / Marc Johnson / Peter Erskine』、エグベルト・ジスモンチのアコースティック・ギターのソロ作『Dança Dos Escravos』、世界の伝統楽器を駆使するステファン・ミカスが共鳴石と尺八で作った『The Music of Stones』、現代音楽やクラシック中心の作曲された音楽に焦点を当てたNew Seriesのコンピレーション『ECM New Series Anthology』などだ。ECMはアメリカとヨーロッパのジャズを繋いだが、そこから生まれた唯一無二のサウンド・デザインを、現代音楽や民俗音楽のフィールドにまで浸透させ、リリースの幅を拡げていった時期にあたる。

Keith Jarrett、Gary Peacock, Jack DeJohnette『Changeless』(1987年:昭和62年録音;1989年リリース)

https://open.spotify.com/album/4tEg1KEHvWR4fiLIaMByS2?si=3y8qSezdQOGBmN-y0Vws7Q


『John Abercrombie / Marc Johnson / Peter Erskine』(1988年:昭和63年録音;1989年リリース)

https://open.spotify.com/album/50VzcP2SrIpSeNK1B3QwUA?si=JMlPCxGRQkC8qDhaV0KuAg


Egberto Gismonti『Dança Dos Escravos』(1988年:昭和63年録音;1989年リリース)

https://open.spotify.com/album/7d7JX9pxTZv5VdZHGr79lk?si=mklmjOZFTcGfKeqlE-0JjQ


Stefan Micus『The Music of Stones』(1988年:昭和63年録音;1989年リリース)

https://open.spotify.com/album/2NjAoWaRtDfcjK5kbEObld?si=8dpMr71xSHaw3GcXRkM1Aw


『ECM New Series Anthology』(1989年リリース)

https://open.spotify.com/album/35FuPV8iDL1KYL0jd3VxGC


 80年代から90年代にかけては、現在に至るECMの基盤となる方向性が確立された。アメリカのキース・ジャレットやチック・コリア、ポール・モチアンやチャールス・ロイド、ノルウェーのヤン・ガルバレクやテリエ・リピダル、イギリスのデイヴ・ホランドやジョン・テイラー、ドイツのエバーハルト・ウェーバー 、スウェーデンのボボ・ステンソン、ブラジルのエグベルト・ジスモンチなど、マンフレート・アイヒャーが信頼を寄せたアーティストの作品をコンスタントにリリースする一方で、エストニア出身の作曲家アルヴォ・ペルトを世に知らしめることとなった『Tabula Rasa』のリリースから始まったNew Seriesもこの時期から本格化していった。

Arvo Pärt 『Tabula Rasa』

https://open.spotify.com/album/3D3dLscRKfP5b9zIr0FED9?si=Y1lpK5rTSGGPB43YvpSYYA


 ECMはその設立当初から、アメリカのジャズを紹介するヨーロッパのレーベルではなかった。クラシックの伝統的な室内楽も、当時ジャズの最前衛にあったフリー・インプロヴィゼーションも繋げるようにECMの音響空間は作り上げられていった。アメリカのジャズ・ミュージシャンの演奏も、ECMというフィルターを通ることで、ブラック・ミュージックとしてのジャズは相対化され、ECMのサウンドに変化した。そのことはミュージシャンに潜在していたものを時に大胆不敵に引き出していったのだ。キース・ジャレットの一連のピアノ・ソロ作や多重録音作の『Spirits』と『No End』はその最たる例だろう。

Keith Jarrett『Spirits』(1985年:昭和60年録音;186年リリース)

https://open.spotify.com/album/4G7Ieq0qLf4mvx4pdNr12T?si=moZbu4H6R4iTRHNlH39WOg


Keith Jarrett『No End』(1986年:昭和61年録音;2013年リリース)

https://open.spotify.com/album/1g3decTTK8jXYfIETDjYK4?si=Qee7FkxwSsajgQJMbQ9XXA


 また、ECMはジャズの外の世界にも積極的に耳を向けた。クラシック、古楽、民俗音楽、現代音楽やエレクトロニック・ミュージックもその対象となった。それはジャンルをクロスオーヴァーするためではなく、ECMのサウンドとして世に紹介すべき音楽が年々、その数を増し、ジャンルも地域性も拡大していったからだ。時代の流れを超越した孤高のサウンドのように語られることもあるECMだが、これほど時流に敏感なレーベルはないだろう。未だ多くの人に知られていない音楽をいち早く察知してきたという意味においてだ。
 New Seriesがスタートする前の1978年に、ミニマル・ミュージックの第一人者であるスティーヴ・ライヒの『Music For 18 Musicians』をリリースしたことは最初の大きな転機だった。のちにCD化された際にNew Seriesに加えられたこの作品は、ミニマル・ミュージックをジャズ・リスナーに紹介しただけではなく、同じ年にリリースされたブライアン・イーノの『Ambient 1: Music for Airports』によって広まったアンビエント・ミュージックとも共鳴していた。アンビエントのコンセプトから生まれた『Fourth World, Vol. 1: Possible Musics』をイーノと共に制作したアメリカの現代音楽出身のトランペッター、ジョン・ハッセルは、ECMからもこの流れにあるソロ作『Power Spot』をリリースすることとなった。

Steve Reich『Music for 18 Musicians』(1976年:昭和51年録音;1978年リリース)

https://open.spotify.com/album/1w9O7mS9WEp5xlZUpYbDt9?si=deAOvSToQVCPrDF4kW6J6w


Jon Hassell『Power Spot』(1983,1984年:昭和58、59年録音;1986年リリース)

https://open.spotify.com/album/3NeBtTjhIhWNnXi7wBcvHo?si=Q2GKlJ_VRLu-2m9UoFoL0A


 90年代から2000年代にかけては、それまでに作り上げてきたECMのサウンド・デザインが、新たな世代から支持を得た時代だと言える。テクノやハウス以降のエレクトロニック・ミュージックのDJ/プロデューサーや、ポストロックのバンドから再評価が為されたからだ。ニルス・ペッター・モルヴェルの『Khmer』と『Solid Ether』のように、ECMにサンプリングとプログラミングされたビートを持ち込んだ作品も登場した。また、ノルウェーの新しいエレクトロニック・ミュージックやジャズのプラットフォームとなるレーベル、Rune GrammofonのディストリビューションをECMはサポートし、そこから登場したフッドやアルヴェ・ヘンリクセンはのちにECMからもリリースをするようになった。

Nils Petter Molvaer『Khmer』(1996, 1997年:平成7, 8年録音)


https://www.universal-music.co.jp/nils-petter-molvaer/products/ucce-9360/


Nils Petter Molvaer『Solid Ether』(1999年:平成11年録音)


https://www.universal-music.co.jp/nils-petter-molvaer/products/ucce-9363/


 そして、2010年代になると、ヴィジェイ・アイヤーやクリス・ポッター、マーク・ターナーら、90年代からアメリカのジャズ・シーンで活躍してきた重要なミュージシャンたちに新たな次なる表現の場を提供した。一方ではアンドリュー・シリルやワダダ・レオ・スミスといったかつての前衛派にもアプローチをするなど、ECMの基盤の一つとしてのジャズは循環と更新を進めてきた。同時に、多様な音楽を探索することもより拡がりを見せ、ECMのディスコグラフィーは膨大なものとなっていった。

  
 

 平成の時代だけでも優に1200タイトルを超えるリリースを実現してきたECMの全容を、ここで追うことは到底不可能であり、「平成の名盤25」としてリリースされたタイトルは入口に過ぎない。音楽が本格的にストリーミングの時代を迎え、ECMも全作品を解禁した。その膨大で豊かなリソースを前にすると茫漠とした気持ちも湧き上がるが、少しリラックスして、聴きたい音から辿っていってはどうだろう。ECMのディスコグラフィーには幾重もの音の道筋があり、次を発見していくことができる。バロック音楽とアメリカーナが、ヨーロッパの辺境にある民俗音楽とエレクトロニカが交差するのが現在のECMである。それは、ジャズをより大きな視点から捉え直し、音楽に向き合う自由を再発見する体験にもなるはずだ。

原 雅明


■祝ECM50周年~昭和/平成の名盤25
50年間の間にリリースされてきた1,500以上もの作品の中から厳選された名盤50作品UHQ-CDでリリース。
シリーズ合計50作品限定発売
7/24 第一回発売 昭和の名盤25作品(UCCE-9330~9355)
8/21 第二回発売 平成の名盤25作品(UCCE-9356~9380)

記念サイト
https://www.universal-music.co.jp/jazz/ecm50th/


■祝ECM50周年~ECM50年の歩み
ECM作品と共に昭和と平成を振り返る年表「ECM50年の歩み」がUPされました!
ぜひこちらもご覧ください、

【昭和編】
https://tower.jp/site/series/ecm50th
【平成編】
https://tower.jp/site/series/ecm50th/heisei

■ECM各種プレイリスト
・ECM Records 1001-1999
SPOTIFY
https://open.spotify.com/playlist/54hZLPMDWjHVpCi9eJtUPB?si=wrWx-nmgT9uUxFpy5Ipjgw

・ECM
SPOTIFY


apple music
https://music.apple.com/jp/playlist/ecm/pl.5a9326f0f5da47059b21850add4d145b

・ECM New & Forthcoming
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apple music
https://music.apple.com/jp/playlist/ecm-%E6%9C%80%E6%96%B0%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9/pl.4913226b0267475ba31a460b5c6ca958