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【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第9回)


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。



【第九章】―情熱のアフロ―

文化祭での演奏が終わり、僕たちは本格的にバンド活動を始めた。レパートリーも増え、徐々にバンドとしてのまとまりも良くなってきた様に感じられた。前に挙げたGLAYやL'Arc~en~Cielだけでなく、当時爆発的な人気を持っていたHi-STANDARDやグリーン・デイなどのパンク的な音楽のカヴァーもやったりした。大阪の堺市の方にあるスタジオに僕らはよく集まり、バンド練習が終わると近くの安い牛丼屋で腹を満たすのが恒例となっていた。そして、そろそろバンド名を決めないといけないなという時期が来たのだが、あろうことか僕はその名前をすっかり忘れてしまい、どうしても思い出せない。確か僕らが好きなバンドの曲名に因んだものだったように思う。ただその時に、ディープ・パープルの由来やニルヴァーナが他の同名バンドと名前を巡って裁判沙汰になったことなど、色々調べたりして面白かった記憶がある。

その後、スタジオから比較的近いところに住んでいたギターのKの家によく集まり、一緒に音楽を聴いたりバカなことを話したりしていた。そういった流れから、自然とKがバンドのリーダー的存在になっていた。僕はたまにKの家に泊まったりもし、夜中に酒とタバコを忍ばせてKの部屋で夢を語り合った。真っ暗な部屋に少しだけ入る街灯の光。日本酒を片手にタバコを吸いながら、少しだけ幻想的な雰囲気の中、僕らはYEN TOWN BANDの「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」をかけ、その音を静かに楽しんだ。もしかすると、自分の音楽を通して聴いてもらっている人々に感じてほしいものは、その、少しだけ幻想的なあの時の情景なのかもしれない。

そうこうしているうちに、文化祭から数か月が過ぎ、僕たちの初ライヴが決まった。場所は大阪、三国ヶ丘にあるライヴ・ハウスだった。対バン形式で僕らを含めて合計4バンドくらいいたと思う。チケットは一枚2,000円でバンドあたり数十枚捌かないといけないという、高校生にとってはなかなか厳しいノルマ制だった。同級生で仲の良い友達を呼んだりしたが、やはり全部は売り切れず、残ったチケット代は自腹でライヴ・ハウスに渡した。ただそれでも、僕らは初ライヴということに心踊り、必死に練習をする日々を送った。バンドとしての一体感も更によくなり、みんなが一つになり演奏できることが何よりも嬉しかった。


セッション・タイム

本番当日、学校が終わるとすぐに会場に向かった。まずはサウンドチェックなのだが、これまで一度もサウンドチェックをしたことない僕らは、一体何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。ドラムのチェック、バス・ドラムを何度も踏んだりスネアを叩いたりしたけど、僕にはその音がどう違うのかが全く分からなかった。そうしてサウンドチェックが終わり、ライヴ・ハウスの向かいにある雑居ビルの2階の楽屋へと。もちろん、対バン形式なので他のバンドのメンバーたちもそこで待機していた。初めての体験に緊張する僕ら、そしてその横で慣れたようにギターをかき鳴らしたり、スティックを振ったりする他バンド。僕らも気を紛らわすために、一丁前にビールを飲みタバコを吸ったりして心を落ち着かせた。

そして本番へ。もちろん僕らは一番下っ端なので、トップバッターでの演奏。文化祭が終わってから何度もリハーサルをしたので今回は大丈夫だ、自信がある。いよいよ演奏が始まるという時に僕はタンクトップに着替え、アフロのカツラを被った! そう、このバンドでの僕の出で立ちはタンクトップ・アフロだったのだ!! ただ、引っ込み思案の僕はその出で立ちだからといって特別目立とうとするわけでもなく、そのまま普通に演奏をした。

1曲目はGLAYの「MISERY」という曲。この曲はX Japanのギタリストhideのオリジナルで、GLAYがカヴァーしたヴァージョンを僕らはいつも1曲目に演っていた。16分音符の速いタム回しがあるのだが、単純に聴こえて難しかったことを覚えている。他にも恒例の曲があって、メンバー紹介の時はTHE MICHELLE GUN ELEPHANTの「CISCO」という曲に乗せて、メンバー各々がアドリブでソロを取り盛り上げたりもした。

これをきっかけに、その後何度かライヴをしたのだが、L'Arc~en~Cielのような曲を歌いたかったヴォーカルのTは脱退、そしてギター&ヴォーカルとして新しくメンバーも入ったのだが、次は僕が脱退した。やっぱりディープ・パープルやジェフ・ベック、ジミヘンみたいなロックを僕はやりたかったのだ。泣きながらメンバーから電話がかかってきたり、苦しい決断だったが、自分のやりたい音楽に妥協はできなく、その後一緒に演奏することはなかった。

そうやって僕らが自分のバンドに専念しているうちに、僕の立ち上げた「軽音楽部」は自然消滅していた。やはりそれほど熱のあるやつはいなかったし、長続きはしなかっのだ。その後、僕はギター部に残り、先輩たちと一緒にクラシック・ギターを弾いたり、コンクールを観にいったりしたが、それも長く続かず退部することになった。

短いバンド生活だったけど、色んな青春の場面があってとても楽しかった。二度と経験できないだろうあの頃の音楽への情熱は、ずっと心に残っているだろう。

※記事中の写真は本人提供

(次回更新は7月1日の予定です)



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