【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第8回)

2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。
【第八章】―初舞台(後編)―
会場が少し暗くなる。演奏開始の時間が遂にやってきたのだ。僕たちは心を決め、練習してきた3曲を最高のものにしてやろうと思った。すると、ボーカルのTがキョロキョロしながらみんなに確認を取り、開始の挨拶を始めた。
「え~っと、じゃあラルクの『Blurry Eyes』をやります。」
なんだ、このクソみたいなMCは! 第一声がそれか!と、今ならツッコメるのだろうけど、僕らは硬直しかけの5人。誰も何のフォローもできずに心の準備だけを済ませる。Tが大きく息を吸い込み、緊張感が伝わってくる。そして僕はハイハットでカウントを始めた。
シャーン、シャーン、シャーン、シャーン!!
「Blurry Eyes」のテンポを出し、みんなで勢いよくイントロを始めた! かに思えたが、ギターのKとIがとんでもないミスをし演奏をやめてしまう。そしてそれに釣られるようにストップするSと僕。失笑する会場、キレ始めるボーカルS。空気は最悪だ。
「もっかいいきます、すんません…」
気を取り直してもう一度カウントから始める。が、しかし! またもや同じミスを繰り返すKとI!! 当然の様に演奏は止まり、もうどうしていいか分からないステージ上の5人。僕の地元の友達が「気にせんでええよ~」と優しく声を掛けてくれていたのだが、そんな声は耳に入らず、怒りに拍車がかかるボーカルのTが怒鳴る。
「止まんなよ!!」
かくいう僕は、「自分のミスじゃないし、俺はあまりかっこ悪くないはず」と、とんでもなく自己中心的に考えていた。次はもう流石に失敗できないぞ、と思い同じ曲の3度目のカウントを始めた。うまくいってくれ、と神に祈りながらようやく魔のイントロからの脱出に成功した。ボロボロになりながらもなんとか1曲目を終え、なんともやるせない気持ちになっていた。こんなことをまだあと2曲も続けないといけないのか。そう思うと心が折れそうだった。
「すみませんでした…」
Tが観客に向けて心なく呟く。直後に「謝らんでもええがな」と客席から父の声が。次の曲はベースのSがフィーチャーされる曲だ、なんとかここで持ち直したい。そう思いながら、ベースイントロが始まり、それといった大きなミスも無く「SHUTTER SPEEDSのテーマ」を安定したまま終えることができた。この曲が終わり、ようやくバンドも少し楽になり気持ちも落ち着いてきた。次は最後の曲だ、ビシッと決めたい。
「え~、『誘惑』をやります」
相変わらず締まらないTのMCだったが、3曲の中で一番有名で人気のある曲だったせいか、会場からは声援があがり盛り上がり始めた。この曲はドラムから始まる、俺がイントロをキメてやる。そう自分に言い聞かせ、勢いよく何度も練習したドラム・イントロを始めた。
タカタカタッタッ タッタッタッタ
タッタッタッタ タッタッタッタ!
自信を持って叩いたせいか、会場の空気も少し締まったように思えた。興奮と緊張で少しテンポは早いがいい感じだ! そのままイントロを無事に終わらせ、ボーカルが入る。そして観客も聴き慣れたメロディに耳を澄ませる。順調にAメロ、Bメロと進みいよいよサビがやってくる! …はずだったが、さっきまで怒っていたTのやつ、なんとサビの入りを完全に見失ってしまったのだ! そのまま演奏は続き、Tは1番のサビを一切歌わず、僕たちは間奏に入ってしまった。なんということだ、またしてもこんな凡ミスが起こるのか…だがしかし、そんなことにはもう構ってられない。Kのギター・ソロが始まり、相当練習した甲斐もあって滑らかに進んだ。ようやくKも自分の見せ場を作ることができ、バンドの勢いも戻ってきた。間奏が終わり、Bメロに戻ってくる。今度はちゃんとサビに入ってくれよ、と期待を込めて演奏し、そしてTもそれに応えた。最後のサビでやっとバンドらしく僕らは演奏することができ、エンディングもうまくキマった。観客もそれなりに反応してくれ、興奮冷めやまぬまま余韻に浸りたいところだったが、次のバンドのセッティクもあるのですぐに舞台上からはけた。荷物を片付けている時に最初にやった上級生のバンドのドラマーが自分のところにやってきた。
先輩「自分なかなかうまいな~、ドラム始めてどのくらい?」
僕「まだ半年ぐらいです」
先輩「そうなんや、しっかり基礎できるしすごいな~。ちなみにバスドラムはこうやって踏んだり色々研究してみたらいいで」
と、自分の演奏を褒め、アドバイスまでくれた。それまで知らなかった者同士が、ドラムという楽器をフィルターに心が通じあった。それは自分にとって嬉しいできごとであったし、音楽が繋げる物語や出逢いに感動した。
文化祭本番
なんとか演奏を終えステージ袖に集まった僕たちメンバーは、改めて本気でバンドを組もうと誓った。ただ一番ミスの多かったギターのIはクビになり、そのまま残った4人でバンドを結成した。これが僕のバンド生活の始まりであった。
※記事中の写真は本人提供
(次回更新は6月17日の予定です)
第1回目はこちら
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/147976?list_page=2&wid=68497
第2回目はこちら
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■来日公演迫る!
ドイツ・ミュンヘンで活躍中の日本人ドラマー、
ECMデビュー作を携えコットンクラブ初登場!
SHINYA FUKUMORI TRIO
福盛進也
2019年6月14日(金)
[1st.show] open 5:00pm / start 6:30pm
[2nd.show] open 8:00pm / start 9:00pm
MEMBER: 福盛進也(ds) トリグヴェ・サイム(sax) ウォルター・ラング(p)
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/shinya-fukumori/
■福盛進也リリース情報
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
NOW ON SALE UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc
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