【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第7回)
2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。
【第七章】―初舞台(前編)―
軽音楽部の連中と仲良く音楽の話をする毎日が続き、ある休みの日に電話が鳴った。
「福盛、お前今からドラム叩きに来てくれへんか?」
同じ軽音楽部に所属していたIからの急な誘いだった。どうやらバンド練習をやろうと思っていたらしく、急にドラマーが来られなくなった(後で聞くと、そのドラマーとはソリが合わずに他にすでに探していたらしい)ので自分に電話をかけてきた、ということだった。初めてのバンド活動ができることに気分は高まり、二つ返事で練習しているスタジオに急いで向かった。スタジオに到着し、部屋に入ると見慣れた顔が並んでいた。Iの他にも部活に顔を出していたメンバーが数人いた。ベーシストだけ他の高校から来ていたのだが、彼はギタリストKの地元の友達で、みんなともすぐに打ち解けることができた。そして、僕はドラムをセッティングし、腰を掛けた。
「何の曲やる?」
と、声を掛けてみる。以前にも書いたが、当時の流行りはGLAYとかL'Arc~en~Cielだったので、メンバーもそれらのバンドの曲をやりたがった。Deep Purpleファンの僕はハードロックをやりたかったが、そこはしょうがない。とりあえずGLAYの「誘惑」という曲をやることになった。GLAYのファンではないものの、知らない曲ではなかったので異論は無かった。
タカタカタッタッ タッタッタッタ
タッタッタッタ タッタッタッタ!
聴き慣れたイントロをドラムから始め、それに合わせてギターとベースが入ってくる。その一体感に興奮しながらイントロを叩き終え、ボーカルがメロディを歌い始める。前に学校のホールでみんなで演奏した「レット・イット・ビー」とはまた違う心地よさ。バンドとしてのサウンドがとにかくこれ以上ない程気持ち良かった。
その後、僕らは定期的にスタジオに集まり、自分たちの好きな曲を練習した。そんなある日、Kからある提案があった。僕たちの高校の文化祭でバンド演奏の募集をしているみたいだから出てみないか、と。答えは聞くまでも無く、全員一緒だった。人前で演奏できることにテンションが上がり、一層やる気が出た。会議の結果、文化祭で演奏するは3曲に絞られた。L'Arc~en~Cielの「Blurry Eyes」、GLAYの「SHUTTER SPEEDSのテーマ」、そしてみんなと初めてやった「誘惑」。ボーカルのT、ギタリストのKとI、ベーシストのS、そして僕の5人は来る日も来る日も楽譜を見ながらこの3曲を練習した。僕もドラムのレッスンに楽譜を持って行き、ドラム・パートをどうやって叩くか教えてもらった。その曲は、16分音符をハイハットで続けて刻む、所謂16ビートというグルーブを多用していたのだが、初心者の僕には到底できるはずなく、その刻む回数を半分にした8ビートをとりあえずキープできるように手ほどきを受けた。今振り返って考えるととてもシンプルなことだが、いくつも目から鱗が落ちるようなレッスンに胸は弾んだ。
そしていよいよ文化祭当日。前日もスタジオに入って練習していたが、やはり朝から緊張感が高まっていた。自転車に乗り学校に到着すると、すでにお祭りの雰囲気が漂っていた。朝礼が終わり、文化祭が始まる。学校中がワイワイガヤガヤする中、僕たちバンド・メンバーは緊張した面持ちで集まった。みんなが気合を入れて自分の衣装を見せ合う中、ファッションに全く興味の無い僕は何も着るものが無く、Kが持ってきたタンクトップを貸してもらった。その後、何を会話したかは覚えていないが、とにかくこの演奏に全てをかける気持ちだけは全員が持っていた。昼過ぎ、ホールで音楽祭が始まる。僕らの出番は確か2番目だったと思う。前のバンドが演奏するのを上の空で観ながら、出番が近くなるのを待ち、僕の鼓動はどんどん早くなる。地元の友達、同級生、両親、そしてただ単に音楽に興味を持った学生や先生たち、たくさんの人がいる中で僕らの出番が回ってきた。僕ら5人は、初めてのステージに足がもつれそうになりながら、心を落ち着かせ自分の位置についた。本来ならそこでシンバルの高さやらチューニングやらセッティングするはずなのだが、そういった知識も経験も全くない僕は、手前にあったシンバルを少し下げただけで、軽くウォームアップ程度にドラムを叩いた。前のバンドの演奏も緊張からか早く終わり、僕らが演奏を開始するまでしばらく時間があった。いっそのことなら早く始めたかったが、学校行事だし時間きっちりに始めないといけなかった。知った顔がたくさん観客席に並ぶ中、どうにもできない居心地の悪さを感じていた。地元の友達が手を振ったり「進也ー!」と叫んで和ませてくれたりもしたが、どうにも緊張は解けなかった。本当はそんなに長くなかったのだろうが、体感的には永遠のような時間が過ぎ去り、ようやく演奏開始の時間が来た。
セッティング中
演奏直前
※記事中の写真は本人提供
(次回更新は6月3日の予定です)
第1回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/147976?list_page=2&wid=68497
第2回目はこちら↓
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第6回目はこちら↓
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■来日公演予約受付中!
ドイツ・ミュンヘンで活躍中の日本人ドラマー、
ECMデビュー作を携えコットンクラブ初登場!
SHINYA FUKUMORI TRIO
福盛進也
2019年6月14日(金)
[1st.show] open 5:00pm / start 6:30pm
[2nd.show] open 8:00pm / start 9:00pm
MEMBER: 福盛進也(ds) トリグヴェ・サイム(sax) ウォルター・ラング(p)
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/shinya-fukumori/
■福盛進也リリース情報
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』
NOW ON SALE UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc
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