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ブライアン・ブレイド、ジョニ・ミッチェルについて語る~ 『JONI 75~ジョニ・ミッチェル・バースデイ・セレブレーション』で音楽ディレクターも務めたドラマー/シンガーソングライター、ブライアン・ブレイドにインタビュー! インタビュー・文/天辰保文

マドンナからノラ・ジョーンズまで、女性アーティストたちが敬意と称賛、そして感謝を惜しまず、男性アーティストたちに至っては、彼女の前では褒められたくて仕様がない男の子に戻ってしまうようなところがある。それが、女性シンガー・ソングライターの草分けであり、音楽家で詩人で画家、ジョニ・ミッチェルだ。1968年のデビュー以来、フォークからジャズまで、ジャンルを超えて彼女だけの音楽地図を描いてきた。昨年11月6、7日の2日間、彼女の75才の誕生日を祝うコンサートが、ロサンゼルスで開催された。2015年3月31日、悩動脈瘤が原因で意識不明になったが、その後回復に向かい、そのコンサートにも姿を現したそうだ。ジェイムス・テイラー、ノラ・ジョーンズ、ルーファス・ウェインライト等々が集まったその時の様子は、『JONI 75~ジョニ・ミッチェル・バースデイ・セレブレーション』として記録に残された。そこで、音楽ディレクターとして尽力したのが、気鋭のドラマー、ブライアン・ブレイドだ。チック・コリアのトリロジー日本公演にトリオの一員として来日中の彼に、当日の様子やジョニの近況をきいた。

 




ーー最初に聴いたジョニ・ミッチェルの曲が何だったか覚えてますか。

ブライアン:16才で運転免許を取った時、親友が彼女のカセット・テープを2本くれたんだ。『ミンガス』と『逃避行』だった。確か、『逃避行』を先にカーステレオを入れたはずだよ(笑)。だから、1曲目に入っていた「コヨーテ」ということになるね。

『ミンガス』1979年作品目



『逃避行』1976年作品



「コヨーテ」




ーー彼女の音楽のどういうところに惹かれましたか。

ブライアン:ストーリーテリング、リリシズム、ハーモニー、その全てを一つにすることでジョニはパーソナルな経験を深く描き出した。でも、そんなパーソナルな曲がぼくら聴き手にとっても同様にパーソナルで、心に語りかけてくれた。ジョニの音楽を聴いた瞬間、それまで聴いたことがない音楽だと感じた。それまでのぼくは、ゴスペル、ジャズ、ソウル・ミュージックなどを聴いていたんだけど、そのどれにも当てはまらなかった。ジョニ・ミッチェルというカテゴリーだった。ぼくだけに語り掛けてくれてるように感じたんだ。

ーーそのジョニ・ミッチェルと、あなたは『テイミング・ザ・タイガー』(1998年)で初めて一緒に仕事をするわけですが、どういうきっかけだったんですか。

ブライアン:ぼくの友人ダニエル・ラノワの紹介だよ。1993年頃、ダニエルとニューオーリンズで知り合い、一緒にレコーディングしたり、ツアーをするようになったんだけど、ツアー先のロサンゼルスで、彼がジョニのところに行こうと言い出した。彼とジョニは昔からの知り合いで、ぼくがジョニの大ファンだというのも知っていたからね。彼女は、『風のインディゴ』を完成間近で、それを聴かせてもらい、ダニエルとぼくとがレコーディングしていた曲を彼女に聴いてもらおうと。ただ、ぼくはニューオーリンズに帰らなきゃいけなくて、その時は彼女に会えなかったんだけど、ぼくらの曲を気に入ってくれてね、電話をくれたんだよ。それがきっかけで、1年近く、電話で話すだけだけど交流が始まった。そして、『テイミング・ザ・タイガー』のレコーディングに、ロサンゼルスに呼ばれたというわけなんだ


『風のインディゴ』1994年作品



『テイミング・ザ・タイガー』 1998年作品




ーー初めてジョニと会ったときの印象はどうでしたか。

ブライアン:彼女は、優しくてね、お互い昔からの知り合いみたいな親近感と友情と信頼がすぐに生まれた。彼女の自宅に行き、楽器を準備して、スタジオで、二人だけで演奏した。そうやって、一対一で一緒に音楽を創る経験をして以来、今回のコンサートまで忘れられない人生の出来事の連続なんだ。

ーージョニの75才の誕生コンサートに、どういう経緯で音楽ディレクターとして声がかかったんですか。

ブライアン:まず、ジョニと電話で話すようになった頃、彼女から連絡があってね、「ニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテージ・フェスティバルへの出演の依頼があり、これが最後だと思って出演を引き受けることにした」と。彼女が、音楽制作を断念しようかと岐路に立っていた頃だね。その時、ぼくに、フェスティバルで一緒にやってくれないかと言ってくれたんだ。一度も会ったことがないどころか、プレイしたこともないぼくを、それほど信頼してくれているなんて、凄く嬉しかったんだけど、先約があってね。人生最高のオファーを断らなければならなかった。でもね、「これが運命ならきっとまたチャンスは訪れる」とも思っていた。実際、その後に『テイミング・ザ・タイガー』で声をかけてくれたからね。75才のコンサートに話を戻すと、7年前にもハリウッド・ボウルでジョニのトリビュート・コンサートがあって、その時もぼくは音楽ディレクターをつとめさせてもらったんだ。その時、声をかけてくれたのは、音楽プロデューサーのダニー・キャピリアンだ。ぼくは、友人のジョン・カワードと一緒ならと引き受けた。そのあと、ジョニの70才の誕生日を祝うトリビュートにも、ダニー、ジョンと3人でかかわったんだけど、その時のディレクターが、ヨルン・ワイズプロットだった。そのヨルンが、ロサンゼルスのミュージック・センターの仕事をするようになり、今回のトリビュートを企画したというわけさ。70才のトリビュートでは、ジョニも一緒に歌ってくれたんだけど、そのあと、動脈瘤で倒れてしまった

ーージェイムス・テイラーをはじめとして、沢山のゲストが出演しましたが、人選にもかかわったんですか。

ブライアン:そうだね、ぼくとダニーとヨルンと3人で、長いリストを作った。チャカ・カーンは、ハリウッド・ボウルにも出ているし、ジョニと長い付き合いがあるし、欠かせないとかね。そのチャカやシールやグレン・ハンサードなどはぼくが提案し、上手くいったと思っている。ロス・ロボスとラ・マリソウルは、ぼくには意外だったけど、結果はとても良かった

ーーアレンジにも、深くかかわったんですか。

ブライアン:ジョンとぼくとで半分ずつ受け持った。でもね、二人の共通意識として大事なのはアレンジではなかった。だって、既にジョニのが完璧だからね。問題は、ジョニがレコーディングしたものを、このアンサンブルで、このシンガーに如何に適合させるかということだった。シンガーたちには自分の世界がある。でも、ジョニが描いた完璧な世界の中にそのシンガーがいなければならない。今回は、全員素晴らしい仕事をしてくれたと思う。例えば、クリス・クリストファーソンはどうやったって彼でしかありえないわけだけど、「ア・ケイス・オブ・ユー」を、あの歌詞を見事に歌ってくれた。

ーーぼくも、クリスとブランディ・カーライルの「ア・ケイス・オブ・ユー」の印象が強烈でした。それにしても、このコンサートは忘れられないものになりましたね。


ア・ケイス・オブ・ユー/クリス・クリストファーソン&ブランディ・カーライル



ブライアン:最初、ジョニに75才のバースデイ・トリビュートが提案された時、彼女はまず、「ブライアンに連絡して」と言ってくれたらしいんだ。彼女が、それほどの信頼をくれた、それがあの場にいたぼくの最大の理由だよ。だから、参加する全員が同じ精神を分かち合い、「ジョニが全てなんだ」という意識を共有できる空間を作り出す、それがぼくの責任であり、それをジョニが感じられないようだったら、ぼくの失敗になる。でも、ジョニは、みんなからの祝福を感じてくれたようだった。それが、何よりも大切だった。

ーージョニは、2日間とも会場に来たんですか。

ブライアン:いや、誕生日当日の11月7日だけだった

ーーどんな様子でしたか。

ブライアン:美しかったよ。身体はまだ、回復途中だったけど、その存在感は半端なかったね。鋭さ、きらめき、目の輝き、、、その全てがね

ーーこれからも、音楽を創ってくれそうでしたか。

ブライアン:そうあって欲しいよ。全快までには時間が必要らしいけど、ぼくは希望を捨てていない。来週あたり、突然電話がかかってきて、呼びつけられたら良いなと。でもいまは、身体を労り、元気を取り戻してほしい、それがいちばんだからね。



JONI 75:トレイラー↓



『JONI 75~ジョニ・ミッチェル・バースデイ・セレブレーション』より


ヘルプ・ミー/チャカ・カーン
https://www.youtube.com/watch?v=lOb7dT_r0mg

コート・アンド・スパーク/ノラ・ジョーンズ
https://www.youtube.com/watch?v=BFA3uw0uURg

リヴァー/ジェイムス・テイラー
https://www.youtube.com/watch?v=2mzlG9ntCGs&list=OLAK5uy_lGhLUR-MhKQ41oyzH4lLN70vmEozUdxC4

ウッドストック/ジェイムス・テイラー
https://www.youtube.com/watch?v=rQoiNvgDWnY&list=OLAK5uy_lGhLUR-MhKQ41oyzH4lLN70vmEozUdxC4&index=15

青春の光と影/シール、
https://www.youtube.com/watch?v=CP_bATl9eJQ&list=OLAK5uy_lGhLUR-MhKQ41oyzH4lLN70vmEozUdxC4&index=7

ビッグ・イエロー・タクシー/ジョニ・ミッチェル、ジェイムス・テイラー他
https://www.youtube.com/watch?v=uzIkH7pa0ug&list=OLAK5uy_lGhLUR-MhKQ41oyzH4lLN70vmEozUdxC4&index=16


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