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【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第5回)



2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。




【第五章】―第一歩―
中学生最後の夏休みが終わり、周りは一気に受験一色となった。いや、世間はもっと前から既にそうだったのかもしれないが、ニュージーランドから帰ってきた僕は、やっとそこで受験生であったということを思い出したのだ。そして受験校を決める頃、学校で三者面談があったのだが、その時の出来事は今でも忘れはしない。

S村先生「お前は将来何がしたいんや?」
僕「音楽をやってプロになりたい」

S村先生は自分のクラスの担任を受け持っていたが、同時にその学校の音楽の先生でもあった。気が強く厳しい指導で有名だったS村先生は、答え終わった僕を見てフンっと鼻で笑い、「音楽? 今まで音楽の勉強をちゃんとしてきたことがあるんか? 無理に決まってるやろ」と、これからの僕の将来を完全に否定した。こういう先生がいる限り日本の教育は変わらないだろうな、と母と二人で怒りを露わにしながら自転車で帰った。


高校入学


余談だが、昨年(2018年)の4月、僕の地元の阿倍野で自身のECMのトリオを引き連れ演奏をした時に、なんとあのS村先生が観に来ていたのだ! 演奏が終わりサイン会の会場に向かう途中に知り合いから、「S村先生が来てるよ!」と呼び止められた。すると、歳を重ね、厳しかったあの頃とは違うとても柔らかい表情で、そして嬉しそうな笑顔と涙で僕を見つめながらS村先生は現れた。特にお互い発する言葉は無く、ただ握手を長い時間交わした。一言「どうもありがとうございました」と声をかけ、以前とは一回り小さく見えたS村先生を後に会場へと歩きながら、長年の遺恨が少し和らいだように思えた。

三者面談の後、幾度となく親に迷惑を掛けながらも、なんとか無事に受験を終わらせ高校へと進学した。卒業後の春休みのある日、家で一人でぼーっとテレビを観ていると、たくさんの荷物を抱えた兄が玄関から入ってきた。何事かと見に行くと、その後に父も続いて荷物を運んでいた。その中身はまさに電子ドラムであり、かつて兄がギターを買ってもらったように、自分も高校の入学祝いに電子ドラムをプレゼントしてもらったのだ。嬉しかった僕はすぐに組み立てたのだが、アンプに繋がないと音が出ないことを知り、兄も通っていたK楽器社へ父と一緒にベース・アンプを買いに行った。ようやく音を出すことに成功し、デタラメだけどガムシャラにそのドラムを叩き、なんとも言えない幸福感を味わった。

それから数日経ったある日、音楽好きの友達の家で僕は電話帳をめくっていた。高校に入ったらドラムをやると決めていた僕は、近所にある楽器屋を片っ端から調べていたのだ。いくつかあったものの、直感で「ここにしよう」とその場でA音楽教室に電話をかけてみた。受付の人と話し「ドラムを習いたい」と伝えると、次の水曜日にレッスンがあるので見学に来なさい、という流れになった。自転車で教室にたどり着いた水曜日の夕方、ドキドキしながら教室のドアを開け、レッスンを見学させてもらった。夕方の薄暗い雰囲気の中、塾とか英会話教室にもある、あの独特の教室の匂い。緊張しながら心が踊った。レッスンは30分と60分のコースがあったのだが、プロになると決めていた僕は、もちろん60分コースを希望した。最初の30分は練習パッドを使い基礎練習、身体の使い方や基本的なリズムの取り方を学ぶ。そして後半30分はドラム・セットを使っての実技。曲に合わせて叩いたり、身体をいかにスムーズに動かすか、とても興味深い内容だった。自分も見学した内容ならすぐにできると思ったし、さらに奥深いところまで知りたい欲求に駆られた。そして、そこで出逢ったS田先生になぜかとても惹かれ、このA音楽教室に月に二回、ドラムのレッスンに通うことを決意した。


電子ドラムでセッション


初めてのレッスン、「好きなドラマーは?」とS田先生に訊かれ、迷わず「XのYoshiki」と答えた。またその頃からディープ・パープルにハマりだし、「イアン・ペイスも好きです」と続けた。その答えを聞いたS田先生はさぞかし自分のことをロック少年だと思っただろうし、実際そうであったのだが、今の自分の音楽性を追求する姿なんてとうてい想像できなかっただろう。

そして、ようやくドラマーとしての第一歩を踏み出し、また、この後S田先生から学んだ多くのことが自分のドラマー人生を大きく左右するものであったことは間違いない。


※記事中の写真は本人提供

(次回更新は4月29日の予定です)


第1回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/147976?list_page=2&wid=68497

第2回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/154756?wid=68497

第3回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/161456?wid=68497

第4回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/169576?wid=68497


■来日公演決定!
SHINYA FUKUMORI TRIO
2019年6月14日(金)
[1st.show] open 5:00pm / start 6:30pm
[2nd.show] open 8:00pm / start 9:00pm
MEMBER: 福盛進也(ds) トリグヴェ・サイム(sax) ウォルター・ラング(p)
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/shinya-fukumori/


■福盛進也リリース情報
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』

NOW ON SALE  UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc

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