ハクエイ・キム 「BLUE NOTE CLUB」独占インタヴュー ~パリでのデュオ・ライヴ盤『カンヴァセーションズ・イン・パリ』を語る。
4月3日にリリースされたハクエイ・キムの新作『カンヴァセーションズ・イン・パリ』は、プランスのパーカッション奏者、グザヴィエ・デサンドル・ナヴァルとの双頭名義で、2018年8月にパリのジャズクラブで行われたデュオ・ライヴを収録したものである。
完全即興(インプロヴィゼーション)で繰り広げられたイマジネイティヴなパフォーマンスを当日の演奏順に真空パックしたという、この作品が生まれたきっかけを、ハクエイ・キムに語ってもらった。
―― 今回の新作となったパリのライヴは、ご自身にとって初めてのヨーロッパ・ツアーの最初の公演なのですね。まずは、単身でヨーロッパに行こうと思ったきっかけを教えてください。
ハクエイ:実は、それまでヨーロッパにはプライベートでも行ったことがありませんでした。それで、まずはかねてから訪問してみたかった都市の滞在スケジュールを決めて、それから各地の知り合いのミュージシャンに自分が行く旨を伝えたところ、トントン拍子にライヴが決定しました。そのうちの一つが、パリでのグザヴィエとのデュオ公演でした。
―― グザヴィエとは、2013年に韓国のフェスティバル会場で知り合ったそうですが、一緒に演奏するのは、このときが初めてでしたよね。ハクエイさんの頭の中で、どんなステージになりそうか、前もってイメージはありましたか?
ハクエイ:彼のオリジナル曲と僕のオリジナル曲を持ち寄ってやるのかな、という程度のイメージしかありませんでした。結果は予想と全く違うものになりましたが(笑)。
―― 渡欧の最初の訪問地がパリで、空港からリハーサル・スタジオに直行したそうですね。
ハクエイ:初めての土地で右も左もわからないまま指定された住所に向かって(笑)、2時間弱リハーサルしました。最初はグザヴィエのオリジナルをやっていたのですが、すぐにインプロヴィゼーションになりました。そしてやっている中で、いろんな音が聞こえてきたんですね。それで、当日になってステージの直前に、どちらからともなく自然と「今日はインプロヴィゼーションで行こう」ということになりました。
―― 実際に一緒に音を奏でてみて、グザヴィエの音楽性はいかがでしたか?
ハクエイ:インプロヴィゼーションというものが彼の中に当たり前のものとして在るんだな、と思いました。また、インプロヴィゼーションは決め事がないので、次の展開を探る場面に時間を費やしすぎてしまうことが時としてあります。でも、今回は場面転換がとても明確だったと感じました。
そうなった原因は、グザヴィエが僕のアイデアに反応するだけでなく、それを踏まえた上で自分のアイデアを返してくれたからだと思います。演奏中は意識しませんでしたが、音源を何度か聴きなおしていくと、僕の奏でた些細な音に反応して、次の展開のリズムやキーに繋がるヒントを投げかけてくれていたんだ、ということに気がつきました。彼は優れた作曲家でありアレンジャーもあるので、インプロヴィゼーションにおいても、どのように展開させていくかが見えていたんでしょうね。
―― パリの聴衆の反応はいかがでしたか?
ハクエイ:パリの観客はシビアだ、とグザヴィエから聞いていましたが、終演後に彼の奥様から「実は、ピアニストにうるさいことで有名なお客さんが来ていたんだけど、今日は演奏に大満足していたわよ」と言われて安心しました(笑)。全体的には、インプロヴィゼーションのような抽象的な音楽に対しても偏見なく受け入れて、自分の人生を豊かにしてくれるインスピレーションを得るべく能動的に楽しもう、という印象を受けました。
―― パリ公演は大成功に終わりましたが、そのステージをグザヴィエが録音していたとは、ハクエイさんは知らなかったんですよね?
ハクエイ:次の訪問地だったローマに移動した後で、グザヴィエから音源ファイルが送られてきました。聴いてみたところ、インプロヴィゼーションだけど、組曲であるかのようにメロディックに仕上がっていて、なおかつ、自分以外の誰かが演奏しているかのような感覚で客観的に聴けました。それが、作品としてリリースして多くの人に聴いてもらいたいと思った最大の理由ですね。
―― 今回は、曲名がすべてフランス語で付けられていますが、何かストーリーがあるのですか?
ハクエイ:これは、僕のパリでの一日を想像して、グザヴィエが考えてくれました。
―― これまでにもアルバムの中でインプロヴィゼーションのナンバーを収録したことはありましたが、アルバム一枚丸ごとインプロヴィゼーションというのは、ご自身のリーダー作では今回が初めてですよね。
ハクエイ:インプロヴィゼーションか否かという固定概念を忘れて、純粋に作品として楽しんでもらえたらと思います。それから、これが僕にとって初のライヴ・アルバムでもあるのですが、収録曲は当日演奏した順番そのままですし、あの夜の会場の雰囲気を詰め込んだ音になっているので、その点も楽しんでもらえたら嬉しいです。
取材:BLUE NOTE CLUB編集部
https://www.youtube.com/watch?v=mYQLoiY79cM
ハクエイ・キム&グザヴィエ・デサンドル・ナヴァル
カンヴァセーションズ・イン・パリ
1. イントロダクション (MC)
2. ス・レヴェイエ (目覚め)
3. ランデヴー・パリジャン (パリでの集い)
4. ル・ミュゼ (美術館で)
5. ワンダリング・ソウル (彷徨える魂)
6. コンタプレ・ラ・セーヌ (セーヌ川に見惚れて)
7. ドゥ・ソレイユ・シュル・レ・グラン・ブールヴァール (グラン・ブールヴァールでの太陽)
8. レ・ゼスカリエ・サン・ファン (終わりの無い階段)
9. ラビリンス (迷宮)
10. デパール・アン・ヴォヤージュ (旅立ち)
ハクエイ・キム(p)
グザヴィエ・デサンドル・ナヴァル(per, voice)
★2018年9月25日、パリ、サンセット・サンサイドにてライヴ録音
2019.4.3 ON SALE UCCJ-2165 SHM-CD:¥3,240(tax in)
ハクエイ・キム 公式サイト
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