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【連載】ゆっくり、だけど、確実に。 〜福盛進也 音楽半生記〜 (第4回)



 


2019年に創立50周年を迎えたドイツの名門ECMレーベル。そのECMから昨年デビューを飾った日本人ドラマーの福盛進也。
15歳でドラムを始め、17歳の時に単身で渡米。その後、ブルックヘブン・カレッジ、テキサス大学アーリントン校を経て、バークリー音楽大学を卒業。10年間のアメリカでの活動後、2013年に拠点をミュンヘンに移し欧州各国で研鑽を積み、遂に念願のECMデビューを飾った福盛進也が、これまでの歩みを自ら綴る連載企画。



【第四章】―ネーピア―

僕の家庭では、母の育った家庭環境から海外への強い憧れがあり、「せめてもの」という想いも含め様々な国からの交換留学生を積極的に受け入れていた。アメリカ、イギリス、カナダ、スイス、バングラデシュ、台湾などなどの国から、長ければ1年間一緒に生活を共にした。

また、母は「子供たちには海外に出るという選択肢も与えてあげたい」という想いを持っていて、幼い頃から英語を学ばせてもらっていた。それが強制的な形ではなく、本当に楽しく自然に英語に慣れ親しむことのできる英会話教室だったので、その言語を話す楽しさというのも覚えた。

だから、兄が高校二年生の三学期に、これまで留学生の受け入れを行っていた団体を通してニュージーランドの高校に1年間留学したのもごく自然な流れであった。ところが、これまでずっと一緒に生活をしていた兄が急にいなくなり寂しくなったせいもあるのかもしれないが、当時中学二・三年生の自分は人生の中で一番の反抗期であったと思う。子供を早くに海外に出した親は自分よりも何倍も寂しく辛かったに違いないのに、たくさん迷惑を掛けたことを申し訳なく思う。その後も幾度となく親を悩ませたと思うが、それは反抗期ではなく若気の至りであったと思いたい。

さて、そんな中でも自分の人生にとてもプラスになる大事な出来事はあった。親が「どうせなら夏休みに進也も1か月ニュージーランドに語学留学したらどうや?」と提案した。というのも、兄は中学二年生の時にも一度同じように夏休みを使ってニュージーランドに1か月ほど留学したことがあり、それを自分もしたらどうかということだった。受験を控えた大事な時期に海外へ行くなんて、と周りからは冷たい目や変な目で見られたが、それを気にせずやってしまうのが福盛家。兄の様子を見に行くという口実もあり(あと、自分がとにもかくにも心配をかける息子だったからだろう)、母と一緒にニュージーランドへと渡った。

母と僕がお世話になったのはネーピアという北島に位置するとても小さな町の語学学校。当時兄は全く違う場所に留学していたのだが、あえてあまり会わない方が成長できるという思いもあり、兄も中学二年生の時にお世話になったこの町、この学校に決まった。とても自然が多く緑が豊かで、大阪とは言葉通り別世界だった。緑の町を自転車で走り、誰もいない綺麗な並木道を通り抜け、坂を登ると学校がある。なんとも気持ちの良い町で1か月過ごした。


ネーピアにて


母と僕は別々のホスト・ファミリーのところで暮らし、別々の生活を送った。学校でもクラスが違ったので自然と他の学生とも仲良くなり、最年少だった自分をみんな可愛がってくれた。もちろん当時Xファンだった僕は、みんなにXの良さを知ってほしいと思い、通学していた時に使っていたウォークマンを取り出し現地の先生たちに聴かせたり、音楽の話がとにかく多かった。そして仲の良かった学生の一人が「X好きだったらこういうのも好きじゃない?」とあるバンドのアルバムを教えてくれた。マリリン・マンソンの『アンチクライスト・スーパースター』、それを聴いた僕はものすごく深い興奮を覚えた。そしてその友達と早速町のCDショップにそのアルバムを買いに行き、毎日そのアルバムを聴いていた。このアルバムは間違いなく名盤であり、今でもたまに聴き返したりする。その後マリリン・マンソンのアルバムを聴き続けたが、この作品こそがベストだった。同じくメタリカの『ブラック・アルバム』も薦められよく聴いたが、僕には断然マリリン・マンソンの方が格好良く聞こえた。 でもホスト・ファミリーの子供たちは「好きだけど言葉が悪いから親が聴かせてくれない」と嘆いていた。その可哀想な彼らが親のいないところで、「スウィート・ドリームス」という曲がお薦めだとこっそり教えてくれた。

また、その滞在中に映画館で観た『グリース』も今でも大好きだ。ミュージカル映画が苦手な僕が唯一楽しめる最高の映画、ジョン・トラボルタがめちゃくちゃカッコいい!


ホスト・ファミリーと


その後、少しだけ兄に会いに行き、通っている高校を見せてもらったりもした。日本の学校との違いに驚愕した。兄はその学校でドラムのレッスンを受けていたらしく、「ここで練習できるねん」とドラムの置いてある部屋を見せてくれたり、自由度の高い校風、そしてドラムを叩ける環境がとても羨ましく思えた。また、兄ととても仲の良い友達はDJをやっていて、壊れたバスをリフォームした、中高生なら誰もが憧れるようなイカしたDJルームを家のそばに持っていて一緒に遊んだりした。

そんな1か月の刺激的な生活を終え、兄を残して僕たち親子は帰国した。関西空港まで迎えに来たボサボサ頭の父を見て、可笑しそうに微笑んだ母を今でも覚えている。


母と兄と


※記事中の写真は本人提供

(次回更新は4月15日の予定です)


第1回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/147976?list_page=2&wid=68497

第2回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/154756?wid=68497​​​​​​​

第3回目はこちら↓
https://bluenote-club.futureartist.net/diary/161456?wid=68497​​​​​​​



■福盛進也リリース情報
Shinya Fukumori Trio
『フォー・トゥー・アキズ』

NOW ON SALE  UCCE-1171
https://youtu.be/eWc5dSMnMcc

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